Los Angelesの顔
No. 77 平田真希子さん1
2019-01-19
ピアニスト・物書き
◆「音楽の持つ治癒能力」について関心を持ったきっかけは、何だったのでしょうか。
私が「音楽の治癒効果」を謳って活動をしている一番直接的なきっかけは、ヒューストンにあるメソディスト病院のCenter for Performing Arts Medicineで、コンサルタントとして起用されたことです。そこのディレクターで、作曲家でもあるTodd Frazierの曲を、私が演奏したのをきっかけに親しくなって、いろいろと教えていただくことになりました。
音楽家の脳は、音楽家でない方の脳とは少し違うそうです。例えば、右脳と左脳をつなげる器官がより発達していたり、Mirror Neuronという他人の行動を自分の行動と重ねてみる機能が強かったりするそうです。
私は、最初は音楽家の脳の研究に協力する形でfMRI (MRI の原理を応用して、脳が機能している時の活動部位の血流の変化などを画像化する方法(出展・コトバンク)) の検査を受けたりしていましたが、最近では、音楽について研究者にお教えしたり、研究発表の論文で音楽に関する部分を共著したりしています。このようなお仕事を通じて、音楽の効用が科学的なデータとして理解できるようになりました。
音楽って本当に凄いんです。他のどんなアクティビティーよりも脳の多くの箇所を強く、同時に刺激します。現代人は「体に良いから」とトレッドミルなどで運動しますよね。同じように将来「脳に良いから」と音楽活動を日課とする人口が飛躍的に伸びていくことに確信を持っています。「音楽の治癒効果」は、詩的でも理想的でもなく、科学的なんです。
生涯学習センターで講義をしている平田さん(左)。参加者たちは満面の笑顔で、平田さんの講義を受けた
◆これまでの活動についてお教えください。
音楽は受け身で何となく聴くのではなく、積極的に関わることで効果が強まることが分かっています。
例えば、聴いている音楽について想像力を働かせるとか、体を動かす、手拍子をする、一緒に歌うなどでも良いです。楽器を練習したり、コーラスの練習に定期的に参加したりするのは最高です。
けれど、このようなことを実際に知っている人が、まだ多くありません。そこで私は、まず講義をたくさん行っています。生涯学習センターなどの教育機関や、YouTubeのビデオ、公共図書館のレクチャーシリーズなどでも講義をさせていただいています。執筆活動も行っていますよ!日刊サンでコラム「ピアノの道」を担当させていただくことが決まって、とても張り切っています。
それから演奏会では、伝統的なクラシックの演奏会の型を破って、楽しい観客参加型の音楽会にする工夫をしています。
曲の説明をする際にもできるだけ対話的にして、質問をお客様に投げかけたり、多数決を取って次の演目を決めたり、質問コーナーを設けたりしています。
音楽の一番の治癒効果は、共感を呼び起こす力だと思います。人は、音楽を一緒に体験することで時空を共にしているという実感が湧きます。人間の喜怒哀楽は言葉や文化の壁を越えることを、音楽は私たちに思い出させてくれます。
音楽の治癒効果がもっとも発揮される場所は、困難に直面している方々がいらっしゃる場所、例えば、病院やシニアリビングセンター、ホームレスシェルター、災害の避難所などだと思います。このような場所でも演奏させていただいています。
私の夢は演奏会場に出向くことが難しい状況にある方々に音楽家が出張して参加型音楽体験をお届けするサービスをビジネスとして展開することです。
<2に続く>
<2019年1月19日掲載>
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。