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コラム

ピアノの道
vol.9 音楽は以心伝心

2019-05-01

 “Without music, life would be a mistake(音楽無しの人生は誤りだ).”ニーチェの格言です。

 「ブラボー!」演奏に感激してくださったご老人が、叫びながら立ち上がって、倒れたことがありました。感動のあまり、杖が無いと立てないことを、忘れてしまっていたんです。

 とあるNYでのパーティーで、90代のおばあさんがブラームスの子守歌を歌われるのを聞かせて頂いたことがあります。1930年代にオペラ歌手だった彼女は、ナチスによって他のユダヤ人と一緒に電車に詰め込まれました。ひどい長旅の後、辿り着いた強制収容所の劣悪な状態に肩を落とした仲間に向かって、彼女は子守歌を歌いました。「ひと時、ここじゃない所に行けた。救われた。」と皆に感謝されたそうです。老いた彼女の歌声と思い出に、パーティーに集まった皆がシーンとして、何十年も前のユダヤ人たちの落胆に寄り添いました。

 音楽はどこにあるのか?—作曲家の頭の中ではない。楽譜でもない。時間でもない。私は、音楽は人と人の間に生まれるものだ、と思っています。

 書く人と、演奏する人と、聴く人の気持ちや立場や視点が、通じ合う時がある。それが音楽の真髄だ、と私は信じます。音楽を聴いて、おじいさんは一瞬演奏家や作曲家の年に若返ってしまったのでは?失望したユダヤ人は、友人に生まれた赤ちゃんのために子守歌を書いたブラームスのやさしさに、慰められたのでは?そしておばあさんはNYのパーティー会場の私たちに、その時のユダヤ人の絶望感をシェアして、平和のありがたさを教えてくれたのでは?

 これから半年間「ピアノに聴く水」と題した演目を世界中に届けます。水をテーマにしたピアノ曲を並べた独奏会。その中に一曲、水に関係ない曲が入っています。ドビュッシーの「花火」。夜空に花火が飛び散る様を描いた曲です。この「花火」を、同じころやはりドビュッシーが書いた「黄金の魚」と言う、鯉が水を跳ね飛ばしながら勢いよく泳ぎ回る曲と並べて、お客さまにどっちがどっちか当ててもらおう!と言う趣向です。ドビュッシーは書き分けられているのか?私は弾き分けられるのか?お客様は聴き分けられるのか?音楽の真髄をゲームにしてしまいました!ワクワクしています。

「ピアノに聴く水」の詳細はこちら。https://musicalmakiko.com/life-in-music/5930
この記事の英訳はこちら。https://musicalmakiko.com/en/life-of-a-pianist/1011  


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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平田真希子 D.M.A. (Doctor of Musical Arts)

日本生まれ。香港育ち。ピアノで遊び始めたのは2歳半。日本語と広東語と英語のちゃんぽんでしゃべり始めた娘を「音楽は世界の共通語」と母が励まし、3歳でレッスン開始。13歳で渡米しジュリアード音楽院プレカレッジに入学。18歳で国際的な演奏活動を展開。世界の架け橋としての音楽人生が目標。2017年以降米日財団のリーダーシッププログラムのフェロー。脳神経科学者との共同研究で音楽の治癒効果をデータ化。音楽による気候運動を提唱。Stanford大学の国際・異文化教育(SPICE)講師。

詳しくはHPにて:Musicalmakiko.com




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