東日本大震災復興支援第2回平原誠之チャリティピアノコンサート
2015-03-31
「忘れないでほしい」この言葉は届いていますか?
日本在住のピアニストで作曲家の平原誠之さんが、ロサンゼルス近郊トーランス市にあるCTKルーテル教会で、3月14日、東日本大震災復興支援チャリティピアノコンサートを開いた。2011年3月11日に発生し未曾有の被害をもたらした大震災から4年が経っても、いまだ多くの人々が仮設住宅で生活している。この日、被災者のみなさんに寄り添いたいというロサンゼルスの人々は、平原さんのピアノの調べにのせて、「震災を忘れない!」というメッセージを日本の震災被災者たちへ送った。
日が暮れて静寂なCTKルーテル教会に平原さんが奏でるレクイエム「犠牲者への鎮魂」の旋律が響き渡った。この曲は、1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災で最も被害が大きかった場所の一つ、兵庫県神戸市長田区の追悼公演のために、平原さんが作曲したものだった。今回で南カリフォルニアでの東日本大震災復興支援チャリティコンサート開催が二度目となった平原さんも14歳の時に、阪神淡路大震災で被災した一人だ。
コンサートでは、宮城県仙台市で小学生の時に被災した北海道北広島高等学校1年の久留嶋乃愛(くるしま・のあ)さんが書いた作文「私の宝物」が、あさひ学園で学ぶ荻野果奈里さんと荻野紗江里さん姉妹によって英語と日本語で朗読された。
久留嶋さんは作文に「一番の宝物は?」と尋ねられたら「記憶と日常」と答えると書いた。「突然恐ろしい怪物の鳴き声のような地鳴りとともに大きな揺れが学校を襲い、瞬く間に平和だった日常は失われてしまいました。その時の記憶は今、必要不可欠なのです。
震災直後は被害状況を多くの人がテレビや新聞などで目にして、募金や義援金を送ったり、物資や励ましのメッセージを届けてくれたことでしょう。日本中が被災地のために動いてくれていました。
しかし、今はどうでしょうか。どれくらいの人々があの時の悲劇を覚えてくれているのでしょう。『忘れないでほしい』この言葉は、届いていますか。自分には関係ないなんて思っていませんか。
私は少しずつ自分があの時経験したこと、感じたこと、被害の様子などを出会った人たちに話すようにしています。テレビなどで見聞きしたことよりも実際に話を聞いた方が覚えていてくれるのではと考えているからです。だから、あの日の記憶が大切なのです」。
会場では、流れる涙を拭いながら久留嶋さんの作文の朗読を聞く人々の姿も見られた。果奈里さんは、「心に染みるような感動とかわいそうな…もう全部。心の込もった作文だと思いました」と話し、 紗江里さんは「震災が起きた時、私たちはなにもできなくて、こうやってスピーチをして今やっと少しでもサポートができたことがうれしかったです」と大役を果たした感想を語った。
コンサートに出席した在ロサンゼルス日本国総領事館の堀之内秀久総領事は、「今日はとても感動しました。久留嶋さんの作文は本当に力強くて、どんなことがあっても普通の日常生活が大切なものなんだとあらためて教えてもらいました。感謝します」と感謝の意を表した。
平原さんは作文が朗読される間、自身が作曲した阪神淡路大震災記念曲「いのちの尊さ」を演奏していたが、「20年前の阪神淡路大震災のことを思い出したり、中学2年生までいた神戸市のことを思い出したり、東日本大震災のことを思い出したり、今まで生きてきた人生を振り返りながら演奏していました」と振り返り、「音楽を通して、みなさまのお力になれたら、これほど幸せなことはありません。これからもできる範囲の中で続けていきたい」と、今後の震災支援の決意を語った。
この日、観客の中には仙台市出身で家族が仙台に住んでいるというロサンゼルス在住の女性がおり、「仙台に帰るたびに復興は進んでいると思うけれども、やっぱり昔あった景色が全く変わってしまったのを目にしているので、本当の意味で昔に戻れるかというと、まだまだ時間が掛かるかなと思います。街に戻ってきたとは言っても、あの時の思いをまた思い出してしまって辛い思いをしていると、両親や友人からよく聞くので、みんなで支えあって、物理的なことよりも精神的なことで支えていけたらいいなと思います」と語った。また他のロサンゼルス在住の日本人女性は、「震災後は私も寄付とかを一生懸命頑張っていましたが、ちょっと忘れていた部分があって、今日は平原さんのピアノ演奏を聞きながら、やっぱり忘れてはいけないな、またサポートしていけることを思い起こさせていただきました」と話した。
友人夫婦が福島県に住み、自身も福島県で講演をした経験があると話したのは、ハリウッド映画などで活躍中の日本人俳優、尾崎英二郎さん。「自分の仕事で、映画やテレビドラマなどの作品を通して、いろいろな方々を元気づけることしかできないんですけれど、今日も震災のビデオを拝見して平原さんのピアノ演奏も聞いて、あらためて震災からの4年間を考えました。済んでしまったことではないですし、まだ避難されている人たちがいる中で、今からの5年10年と、僕や僕の周辺の人たちで作品作りを通じて何ができるのかをずっと考えなければならないなと、あらためて身が引き締まりました」と話した。
来場者たちは、平原さんが作曲した曲を含む11曲のピアノ演奏と久留嶋さんの作文を聞きながら、再び2011年3月11日の東日本大震災を思い出し、それぞれの復興支援について考える時間を持った。
=Tomomi Kanemaru
コンサートを終えて。(左から)南加道産子会事務局長の小田真由美さん、花束を持つ平原誠之さん、英語の朗読をした荻野果奈里さん、日本語の朗読をした荻野紗江里さん、堀之内秀久総領事
コンサート後、堀之内総領事(右)と談笑する平原さん
CTKルーテル教会の日本語牧師のホンソン・キムさんがMCを務めた

