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コラム

龍馬ゆかりの人々
第51回 キャピタン・ジェームス その4

2011-09-10

 キャピタン・ジェームスのその後は、関義臣の子孫が代々伝えられた事を信じている。関義臣の孫、小原正義の記するところによると、母・関花子(昭和40年9月30日没)により、物心ついた正義はよく“ジェームスさん”の話を聞かされた。

 「母は、明治39年、当時、陸軍大尉であった小生の父・正忠と結婚したが、ジェームスさんから金の指輪が送られた。昭和19年、戦争のため、やむを得ず日本政府に供質させられた」

 元立正大学学監の小林一郎先生と特に親交があったが、「身延山久遠寺に英国人ジェームスの墓があるが、その由来は分からない」と申して、その主旨に正義は「余りの事に母は非常に嘆いておりました。何故、母がそんなに嘆いたかと申しますと、ジェームスさんは大の日蓮宗の信者で(祖父義臣の影響による)、日頃から『自分が死んだならば身延山に葬ってくれ』と、母の父・関義臣(海援隊客員)に依頼してあった」と話した。関家では、毎年1月8日のジェームスの祥月命日には日蓮層のお坊さんを呼んで回向をしている。

 わたくしは、その歴史的物語を知らず、山梨の龍馬会海援隊の御案内で久遠寺に三年前にお参りした。それは、誠に立派な石碑であった。名前もキャピタン・ジェームスと石碑に刻まれている。普段いわゆる観光旅行でも、少し目を止めると其処には重大な歴史が潜んでいる。

 戦後、日本は「忘恩の国」と言われる時期もあったが、旧台湾と韓国の人達は敗戦後も戦中の事を忘れず、普通に日系人社会に融合している。私の友人である台湾出身の御家族は、戦争中の迫害は致し方ないと大きな気持ちでいる事は正に恩讐を超えた人の倫理であろうかと思う。

 今もある品川の“ジェームス坂”は、英国人船長ジェームスの徳を伝える近所の人々によって呼ばれているもので、ジェームスは英国人でありながら、英国よりむしろ我が国のために尽くされた日本人の恩人である。ジェームスさんの日本人への愛情は、“ジェームス坂”として永遠に消えないであろう。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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飯沼信子

著述家。静岡県沼津市生まれ。歴史の中に埋もれた、海外で活躍した日本人、
その妻らを取り上げ、「野口英世の妻」「高峰譲吉とその妻」等の本を著す。
2006年、その功により、日本政府より旭日単光章を受章。日本ペンクラブ会
員、日本エッセイストクラブ会員。ウエストヒルズ在住。




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