苦楽歳時記
vol.23 月
2013-01-21
♪ 月がとっても青いから 遠回りして帰ろう
一千年前、紫式部は詠(うた)っている。
「めぐりあひて 見しやそれとも分かぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かげ」
紫式部が『源氏物語』を綴った石山寺(滋賀県大津市)は、月の名所としても名高いが、この歌には紫式部が青春時代に恋愛体験をした懸想(けそう)が、色濃く刻み込まれている。
露伴の句で惚れぬいているのがある。
「名月や舟を放てば空に入る」
(水面には月が映っている。舟を出すと、まるで夜空に浮いているみたいだ。)月を題材にしている定型詩や自由詩には、池、川、湖、潮が良きパートナー役を務めている。
中原中也の詩『湖面』の冒頭は、「ポッカリ月が出ましたら舟を浮べて出掛けませう・・・」。月のイメージは風流かつ神秘的でもある。
「月」で連想したのが『竹取物語』だ。好色家で名が通っていた五人の貴公子たちは、一心不乱になってかぐや姫の家の周辺で露営を張りながら、闇夜になると垣根の隙間から家の中を覗き込んで情欲を燃やした。
求婚することを「呼ばふ」の連用形「呼ばひ」に転じて、「婚」(よばい)と当てられたが、後に彼らのような行為をすることを、「夜這い」と意識されるようになった。
月を見上げていると、つと萩原朔太郎の第一詩集『月に吼える』に思いが馳せた。序文に北原白秋は記している。「月に吼える。それは正しく君の悲しい心である」と。白秋の序文は朔太郎の一つひとつの詩集に、更なる芳純な「香り」を漂わせることになる。それは朗月のように美しい、壊れることのない友情であった。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。