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コラム

苦楽歳時記
vol. 26 励ますことの大切さ

2013-01-21

言葉の乱れが指摘されて久しいが、その起因の一つに、私たちは日頃から、ささやかな心づくしを怠っているのではないだろうか。

「丸い玉子も切りようで四角」とは、何事も言い方いかんによっては、円満におさまったり角が立ったりすることをいう。ドイツの詩人ハイネは語っている。「言葉が生きていれば小人でも軽々と運べるのだが、言葉が死んでいれば、どんな巨人だってまともに起すこともできない」

言葉ほど人の心を傷つけ、反対に愛情を育むものはない。英国の詩人ロバート・ブラウニング(一八一二~一八八九)には病弱の妻がいた。何一つとして妻らしいことを夫にやってあげられない妻のエリザベスは、夫に対して終始申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

ロバートはそんな妻の思いを察して、「君は、まるで天使だ」と言って励ましつづけた。エリザベスは夫の優しい言葉に感謝するものの、所詮、それは慰めの言葉に過ぎないのだと感じていた。

けれども、ロバートは「君は天使だね」と言う囁きを日々忘れなかった。晩年、エリザベスは姉妹に手紙を送っている。その一行には「私は、本当に天使になったように思えてきました」と綴られている。

言葉づかいや礼儀の基本は、思い遣りにあると思う。他人に対してだけ礼儀正しくするのではなく、家庭や夫婦の間に於いても、慈しみを怠らないように心掛けていきたいものだ。

担任の先生から落ちこぼれの烙印を押されたA君は、落胆して家路についた。家に帰ってから母親にそのことを話すと、お母さんはA君の話に耳を傾けて、静かに聴き入った。そしてお母さんはA君に向かって言った。「息子よ、おまえはわが家の天才だ!」

あの発明王エジソンも、不登校の落ちこぼれだった。そして、後に天才と称賛されるようになった。以来、母親は、A君のことを「わが家の天才」と呼んで励ましつづけた。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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新井雅之

文芸誌、新聞、同人雑誌などに、詩、エッセイ、文芸評論、書評を寄稿。末期癌、ストロークの後遺症で闘病生活。総合芸術誌『ARTISTIC』元編集長。




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