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コラム

龍馬ゆかりの人々
第65回 萩焼きと雅子

2013-01-21

 裏千家のお茶の道に入門してから早や50年。おもえば1952年の春、何気なく友人に誘われて赤い袱紗と扇子を持って、大学の茶道部に入った。まだ戦争が終って10年が経った頃だった。
 私の3人の姉たちは安達流のお花で、お茶を習うのは私が最初。「三日坊主で終るだろう」と言ったらしい。
 それがとことんお茶の世界に入ってしまい、あれもいる、これもいると集めた茶道具が、今やもう戸棚に入りきれないほどになり困っている。
 環境とは不思議なもので、我が家にあったお皿や丼がかなり気のきいたものだった。その中で、長姉がこれは萩焼きだ、これは伊万里だと小学生の妹たちに教えてくれた。姉は女学絞が終ると、すぐに東京女子美術の日本画科に入学した。その年の学園祭に特選になった。同学年には後に女流画家として名を成した人もいた。絵を画く人はやはり美的感覚が優れているのだろう。 
 アメリカ生活60年。若い時に蒔かれた種は枯れずにいた。萩市を訪れたのは、もう15年も前のことだった。2回目の時は娘と二人で萩焼きの名人の窯元で茶碗を求めた。
 時は流れ、今は茶碗の名器を訪ねる意欲もなく、10月の「第24回全国龍馬ファンの集い 下関大会」に参加した際には、激動の日本の夜明けの足跡を辿りたいと思う。幕末の英雄は一人の清純な妻を残して挫折した。戦いと論争の中に失われたものは一体なんだろう。高杉晋作の妻・雅子は56年間、夫を慕い清らかに生きた。手に残るものは萩焼の水滴一つ。手のぬくもりを絶やさず晩年まで手許に置いてあった。
 現在は、下関吉田にある高杉晋作資料館(東行庵)にあるという。ぜひ見たいと思っている。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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飯沼信子

著述家。静岡県沼津市生まれ。歴史の中に埋もれた、海外で活躍した日本人、
その妻らを取り上げ、「野口英世の妻」「高峰譲吉とその妻」等の本を著す。
2006年、その功により、日本政府より旭日単光章を受章。日本ペンクラブ会
員、日本エッセイストクラブ会員。ウエストヒルズ在住。




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