苦楽歳時記
Vol.46 バブルは良き時代
2013-05-30
僕は、バブル期に旅行社を営んでいた。その中にツアー部門があり、ガイドの役目を果たしたことがある。ある日、リトル東京の今は無き、ニュー・オータニ・ホテルから予約が入った。
あらかじめホテルのコンシアージから、市内観光とビバリーヒルズのロデオ・ドライブで買い物があるらしいから、お願いしますとことづけられた。僕は、キャデラックのリムジンで顧客を迎えに行った。
ロデオ・ドライブに到着すると、他の店には脇目も振らずに『ビジャン』だけを目指した。リムジンの客の不動産屋は、スーツを四着購入しが一着八千五百ドル。当時の為替レートで百二十万円。既製服なのに超高額だ。
『御幸』、『大同』の高級服地を使って仕立て上げたとしても、せいぜい二十万円もしない。
この日は、たまたまオーナー兼デザイナーのビジャン氏がおられて対応してくれた。ビジャン氏と僕は、しばし話し込んだ。
ベルエアーを始め、ニューヨーク、ローマ、モナコ、スイスに別邸があるという。店の中に張り付けてある若いモデルらしき女性のポスターに指をさして、「あれが私のワイフです」と、誇らしげに説明してくれた。
世界の、主に中東の国王の所へ、飛行機をチャーターして商品を売ることが主流で、一度のトリップで平均五百万ドルの売上金を得るという。
市内観光を終えてホテルへ向かう途中、客はどこか近くの時計屋に寄れと行先を指示してきた。とてもサービスが良いので、何か買ってやると伝えてきた。
僕は丁寧にお断りしたが、どうしてもと客は引かない。結局、五千ドルのローレックスの腕時計を購入してくれた。僕は心の中で呟いた。どうせなら、現金で五千ドル貰える方が有難い。
時期は不動産バブル絶頂期、「又来ますぜ、ひいきにしてやるからなぁ」。不動産屋は相好を崩して、ホテルのロビーへと消えていった。そのあと直ぐに、日本のバブル崩壊が始まった。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。