苦楽歳時記
Vol. 49 オリジナル・ショートショート三話
2013-06-14
『勤労意欲あり』
元留学生のAは、全く働こうとはしない。アメリカで七年余り不法滞在を続けながら、親からの仕送りで生計を立てている。いわゆるニートである。ついに業を煮やした父親が、わざわざ日本からAの様子を見にやって来た。
「いい加減にしろよ。みっともないから、さっさと働け」
「ったく、うるせえなぁ、ミートなのだから、ほっといてくれよ」
「なにっ、それも言うならニートだろ。全く情けないやつだ」
父親は肩を落とした。Aは外へ出て行ってしまった。
「おい、どこへ行くのだ」
「だからミートだって言っているだろう。これから肉屋へ出勤するのさ」
◆
『羽田と伊丹』
二十七、八年前に帰国した際、羽田の日本空港のカウンターでチェクインをしたとき。
係りの女性が、「お座席は後ろになさいますか、前がよろしいですか?」
「前の方が早く着くから前にする」
係りの女性は憮然として、「どちらでも同じでございます」
同じことを伊丹(大阪国際空港)で試みた。
「前の方が早く着くから前にする」
係りの女性は笑顔で、「私もそう思います」
◆
『鮨屋にて』
板前:今朝仕入れたばかりのマグロです。
客 :やっぱり天然マグロは美味しいね。
板前:じつは養殖です。
客 :ハマチも脂が乗っていて美味しい。
板前:これも養殖です。
客 :アナゴもほくほくとして柔らかい。
板前:アナゴも養殖です。
客 :養殖、養殖って、鮨は和食でしょ!
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。