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コラム

苦楽歳時記
Vol51 鶏(ニワトリ)

2013-06-26

娘が幼いころ、童話『桃太郎』を読み聞かせているとき、ふと考えてしまった。いつか娘から、犬、猿、キジが桃太郎のお供をした意図を訊ねられたら、何と説明しようかと思った。

定かではないが、案ずるに犬は門を守り、猿は人に近く、鶏は時を知らせるという謂れが真相のような気がする。

鶏がキジに替わった理由は、鶏はキジ科であることと、室町時代まで鳥類の中でキジが最も高貴なものとされていたからである。
 
往時の料理に関する古文書を閲覧していると、美味しい食べ物のことを『美物』(びぶつ)という言葉で表現されている。『枕草子』や『徒然草』、そして日本最古の料理書『厨事類記』には、キジの肉を称揚している箇所が幾つかある。
 
アメリカ産のブロイラーが日本に輸入されたのは、一九六〇年以降のことだが、その頃から国内でもブロイラー養鶏が始まり、一般家庭で鶏を食用とする習慣が広まった。

速成肥育のブロイラーは肉に締りがなく、旨味のつくひまがないから不味である。当然ながら、舌が肥えている日本人には飽きられてしまう。当地の日系マーケットでも、地鶏や地卵がよく売れているようだ。

雄鶏の擬声は「コケコッコー」であるが、当地では「コックアドゥードゥルドゥー」、チャイナタウンへ行くと「ウォーウォー」と鳴いている。ついでにフランスでは「コクリコ」、ドイツは「キケリキ」と鳴く。

国によって、こんなにも音韻観念が違う。子供に物語を朗読して聞かせる折にも、真心から伝えようとしないと心に響かない。今夜は久方ぶりに、プーシキン原作の絵本、『金のニワトリ』を家人に朗読してもらおう。そして夕食の献立は親子丼だ。毎月二十八日はニワトリの日。

 


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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新井雅之

文芸誌、新聞、同人雑誌などに、詩、エッセイ、文芸評論、書評を寄稿。末期癌、ストロークの後遺症で闘病生活。総合芸術誌『ARTISTIC』元編集長。




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