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コラム

現代社会ド突き通信
1945年以来核に怯えていた私 第四回

2014-03-21

 1995年の11月末近く、日本からアメリカに帰る機内で、隣り合わせた日本人男性に、「アメリカの何処にいらっしゃるの?」と訊ねると、「ロサンゼルスで乗り換えて、ニューメキシコ州のアルバカーキーまで行き、そこからロス・アラモスまで行きます」と彼は答えた。他に二、三人の男性と一緒にいくようだった。
 普通の観光客はロス・アラモスには行かない。最初の原子爆弾が製造されたところなので、差し詰め、日本からなら、そこを訪れるのは物理学者かリポーターくらいのものだと思っていたので、「なにか学会でもあるのですか?」と訊ねた。すると、「いやあ、学会じゃありません。私は三菱重工に勤めている医者でして、原子炉は三菱重工と東芝とが造っているのがあるので、そこで働いている人が放射能障害に遭遇したとして、そんな場合いかにして治療するかを学びに行くのです」と彼は言った。
 私はナイーブにも、日本が世界で一番最初に核被害を受けた国民であるので、そういうことは熟知していて、あの多くの原子炉を建てたのだと思っていた。つまり、アメリカに教えてもらわなくても、世界の先端を行っていると思っていたのでショックを受け、「そりゃあ、泥縄ではないですか?」とつい口を滑らせてしまった。「泥縄といいますと?」と、その医者は怪訝な顔をして私の顔を眺めた。「つまりですね。54基も原子炉がある日本は地震国で、いつ何どき神戸のような大きい地震が起こるか分からない土地柄ですからね。起こったら、チェルノブイリ以上の被害が起こるのは必定ですから、今日明日にでも地震があれば、泥縄ということになると思ったんです」と、私はいつも気にかかっていることを忌憚なく述べた。
 「ああいうことは滅多に起こりませんよ。それにしてもよくご存知ですね。今作動している原子炉は、49基です。私たちが学ぶのは、放射能で相当やられた見込みなしの人とは違って、まだ直る可能性のある人々を治療する方法なのです」 ああやはり死にかけの人は見捨てられるのだ、なんと残酷なことよと、傷ついた動物は仲間から見捨てられるテレビでよく観る動物の生態を思いうかべたことだった。
 放射能を扱っている人の中には、よく知っているがゆえに危険だ危険だと叫ぶ人と、そういうことを考えると、政府や大会社の紐付き研究で金儲けができないので完全に無視し、大したことはないという人と、二通りある。

 家に帰ってから2、3日たって、新聞を拡げると、時差ぼけの寝ぼけ眼に飛び込んできたのが、大金を遣って建てたプルトニュームの原子炉「もんじゅ」から、ナトリュームが漏れていたという記事があった。
 それを日本原子力委員の人々が隠していたという。私は素人で分からないが、放射能が漏れていないかどうかは書かれていなかったけれど、果たして放射能は漏れていなかったのだろうかと勘繰りたくなる。動燃は「もんじゅ」を建設するときに、250年に一回しか事故が起きないと、言っていたらしい。
 1996年はチェルノブイリの事故以来10年目であるが、あそこも事故が起こったとき、即刻公表しなかったので大変な結果になり、今になって続々と放射能禍の実態が明らかになり(死者7千人、将来の死者6600人)、世界中を震え上がらせている。
 最近でも、あれほど無事故だと自慢していたフランスのパリ郊外の原子炉も故障し、アリゾナのパルロベルデのアメリカで一番大きな原子炉の1500ポンドのウラニュムの燃料集束体を外すのに大変な危険性を伴っていると新聞に出ていた。今のところ放射能は漏れていないとはいっているが・・・。日本でも福島県のが故障していた。こう見ていくと、「まあ滅多に無い。偶然である」といっている権力者が、被害は自分には降りかからないと思っている無知蒙昧さに呆れるばかりである。
 偶然にしては余りにも多くの原子炉の故障がありすぎる。今まで皆隠されていて報道されなかっただけのことである。世界全体に430基あるそうであるが、アメリカ104基、フランス57基で、土地のサイズから言えば日本が一番密集している。どれもこれも安全だとは言い切れない。せめてもの慰めは1978年以来、アメリカでは新しい原子炉の発注がないことである。それも危険だということではなしに、経済的な理由、あまりにも高価であるからと、こちらの新聞に出ていた。
 それにしてもいま考えるに、あの飛行機の中の医者たちは、あの時、既に『もんじゅ』のナトリウム漏れを知っていたのではないか?
 それとも偶然?


 あの医者は、知っていて秘密を守らねばならなかったのかもしれません。「もんじゅ」の事故で慌てて手当て方法を学びにロス・アラモスに行くところだったとしたら、私が違う意味で、「泥縄」と言ったことが偶然に一致していたんです。詰まり原発を日本に54基も建てると決める前に事故のことを考えるべきで、そのときの治療方法を充分知っていて建てたのだろうと、子供を育てた女としては常識として考えるからです。あの医者は私を胡散臭そうにきらりと目を光らせたので気がついたのでした。      (つづく)


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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米谷ふみ子




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