キム・ホンソンの三味一体
Vol36 ことばの力
2014-08-28
育休(育児休暇)も後残りわずかとなりました。一ヶ月ほど前から、毎朝双子をベビーカーに乗せて近所を散歩しています。毎日の散歩で気づいたことは、アメリカ社会は子供連れに対してとても友好的だということです。会う人会う人優しい声をかけてくれます。中にはわざわざ車の窓を開けて「双子なの?ジャックポットだね!」と声をかけてくれた方もいます。全く知らない人からこうやって声をかけてもらえるだけでなんだか、子育てもっと頑張ろうという気持ちになるのですから不思議です。日本では以前から「少子化」という言葉をよく耳にしたりしますが、制度や法律だけでなく、親達が子育てを歓迎されていると実感できる社会になればより効果的かなと思ったりしています。
ところで数週間前のことです。その日は何ブロックか散歩の距離を延ばしてみたところ、病院所属の外来専門のビルがあって、その前の階段で60代後半に見える痩せ細った白人の男性が座ってタバコを吸っていました。髪やヒゲも伸ばしたままで、服装もお世辞にも小きれいだとは言えないような格好でした。タバコの煙を避けて何となく早足で歩道を通る私達にかまわず下を向いたままタバコを吸っていました。散歩コースを変えようかも思いましたが、何となく次の日も次の日もその道を通って、駆け足でおじさんのタバコの煙をかき分けながら通るのが日課になりました。
そんなある朝、たまたまその階段から移動中のおじさんに出くわしました。ベビーカーのカバーが開いていて、どうやら双子達がおじさんと目が合ったようでした。双子達のスマイルに、おじさんの方はどうしたら良いか分からないような表情に見えました。そこで私の方から「グッドモーニング」と言ったのがきっかけで、今では毎朝、遠くの方から私達が来るのを見ると急いでタバコを消して、「グッドモーニング」と挨拶をしてくれます。ほんの二言三言の立ち話ですが、双子達を見るおじさんの目が前とは違って生き生きしているような気がします。言葉ならぬ赤ちゃんのスマイルで自分が歓迎されていると感じてくれたのかなと考えると、双子達がいなかったら最後まで彼を無視し続けたに違いない自分が恥ずかしくなります。仕事から帰って来たばかりの家内にそんな話しをしようとしたところ、今月で4歳と一ヶ月になる娘に「いまわたしがママとはなしてるでしょ!」と怒られました。癒すことばもあれば傷つくことばもあります。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。