今月の庭仕事
Lesson 154
2015-12-09
日本人の国民的な象徴である春の桜、綺麗な秋の装いを見せてくれるアスペンや白樺の黄色、赤い砂糖カエデなどに見られる赤、私たちの生活に豊かな潤いを与えてくれます。このような現象が起こるのはなぜでしょう。生育環境などいろいろと理由は考えられますが、大気の温度が大きな役割を果たしています。
桜は咲く前の寒さの積算された量で、過去の歴史なども含めて大方の開花予想が計算されます。日本のように南北に長く高い山のある国は、その広い緯度や高度のため、寒さの北進、または山の高さによる温度差が明らかなので、世界的に珍しい「桜開花前線予想」が可能となります。
秋の紅葉は日光と寒さによって引き起こされますが、葉の内部では落ち葉になる前に栄養分の移動があり、これによって紅葉となります。栄養分の行き先は幹や枝や芽で、翌年の栄養分として貯蔵されます。秋に忙しいリスなどが、冬のためにドングリなどを集めて貯蔵するのに似ています。
より大局的な面から植物に対する寒さの影響を見ると、その裾野は限りなく広くて、目には見えないものや関心の薄いものなどにもその影響を及ぼします。例えば、オレンジは寒さを通すと美味しくなると言いますし、ほうれん草も秋の寒さに当たると味が濃くなると言います。いちごは苗の時期に寒さに当てると花が良く咲き、シンビディウムなども花芽結成の時期にある程度の下方気温変化で花が多くなります。それを達成するために、“山上げ”などという言葉もあります。
寒さも程度問題で、「過ぎたるは及ばざる」 のことわざを覚えておく必要があります。熱帯や亜熱帯の植物は寒さの程度にもよりますが、成長が鈍ったり、葉が焼けたり、ひどい時は枯れてしまいます。クリスマスのポインセチアも店頭に並ぶまでは温室で育てられているので、ヒーターなどの乾いた温度の要因もありますが、寒さで葉を落とすこともあります。これは大きなガラス窓の枠などに置くと起こりがちです。ちなみに、鉢の土の表面が白くなるくらいに乾いても大きな影響はありませんが、その時は水をあげてください。
今年も人間社会ではいろいろとありましたが、時というものはそれらを静かに押し流していきます。しかし目を移せば、素晴らしい静かな自然界も周りにいっぱいあります。皆様の、幸多い年を祈ってやみません。
■今回のコラムニスト:南加庭園業連盟会員の白澤まことさん。連盟主催の野菜セミナーで講師を務める。NTB「チャレンジ・ザ・ガーデニング」出演の経歴もあり。
注:次回の白澤さん執筆の「今月の庭仕事」は2016年1月6日(水)付け掲載です。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。