1000字で文学名著
第2回 『雪国』 川端康成
2016-02-17
川端康成の長編小説、『雪国』の冒頭はあまりにも有名である。
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。向こう側の座席から娘が立って来て、島村の前のガラス窓を落とした」。
その優れたところは、書き出しの数行だけだと極論を唱える者もいる。『雪国』の舞台となったのは、上越国境の清水トンネルを抜けた湯沢温泉である。作中には温泉の名前は書かれていない。
〔主な登場人物〕
【島村】親譲りの資産家でフランス文学の翻訳家。歌舞伎、日舞、西洋舞踊研究家。東京に妻子あり。
【駒子】二十歳前後のたおやかな風情の女性。東京に売られてから旦那が亡くなり、故郷に戻って芸者になった。
【葉子】哀しいほど美しい声の娘。駒子の住む温泉町出身の女性。
【行男】腸結核を患う病人。駒子と幼馴染。
【佐一郎】葉子の弟。鉄道の信号所で働いている少年。
〔簡単なあらすじ〕
島村は温泉宿で、芸者の駒子と出逢い交情を深める。
駒子の踊りの師匠の息子、行男は駒子のいいなづけと言われているが、駒子は否定する。行男を介護する葉子と微妙な関係ある。
三度目の長逗留で島村は、駒子は「自分に惚れている」と察する。島村の心を読む駒子は、彼が葉子にも惹かれていることを悟る。
映画の上映会で会場が火事になり、二階から葉子が飛び降りる姿を見て、駒子は駆け寄って葉子を抱きしめる。それを島村が見て、自分の犠牲か刑罰を抱えているように思う。
『雪国』は川端文学を代表する名作。ノーベル文学賞の審査対象になった作品でもある。福田和也は、『雪国』は二十世紀十大小説の一作と述べている。一九六八年(昭和四十三年)ノーベル文学賞受賞後、川端は帰りの飛行機が墜落してしまい、川端自身も死歿することを強く望んでいた。
更に、良い作品を書けと言われても書けない。作家として限界を感じていたのだ。ノーベル文学賞は、川端にとってかなりの重圧になっていた。
それから三年半後の一九七二年(昭和四十七年)、逗子マリーナ・クラブハウスの自室で、ガス管をくわえて絶命した。享年七十二。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。