1000字で文学名著
第5回 『老人と海』アーネスト・ヘミングウェイ
2016-05-17
老年のキューバの漁師サンチャゴは、かつてアフリカ通いの帆船の水夫であった。今は助手の少年マノーリーンと小さな帆かけ舟でメキシコ湾の沖に出て、一本釣りで巨大な魚を獲って生計をたてている。
ところが、このところどういうわけか八十四日も不漁が続いた。一匹も釣れないので、少年は両親から別の舟に乗るように命じられる。
助手なしで沖合に漁に出たサンチャゴは、釣り針に大きな当たりを感じた。巨大なカジキマグロが喰らいついていたのだ。三日三晩にわたる孤独の死闘の末、サンチャゴはカジキマグロを仕留めるも獲物が大きすぎて舟に引き上げられない。帰するところ、舟の横に縛りつけて港へ戻ることにした。
しかし、格闘で傷ついたカジキマグロから血の流れる臭いにつられて、サンチャゴの舟はアオザメの群れに襲われる。カジキマグロの身はサメの群れに喰いつくされて、ようやく港にたどりついたときには、釣り上げた巨大なカジキマグロが骸骨になっていた。
サンチャゴの舟とカジキマグロの残骸を港で見たマノーリーンは、老人の船小屋にやってきたときには、サンチャゴはベッドで眠っていた。老人はアフリカでむかし見たライオンの夢を見ていた。その寝顔は安らかであった。以上が簡単なあらすじである。
主な登場人物は、老漁夫(サンチャゴ)と少年の(マノーリーン)二人だけなので読みやすい。巨大な魚を釣るという本質的な興奮と、老人の独白や心理描写が緊迫感を生み出し、読みごたえのある作品といえる。
それは、簡潔な言葉で最大の効果をねらう効率の高い文章にあるといえる。まどろこしい心理描写が否定されて、鮮烈な行動主義の文学が創造されていた。
戦後、ヘミングウェイはフリーの記者となり特派員としてパリに渡った。詩人ガートルードと出会い、知遇を得て小説を書きはじめた。記者の時代に修得したであろう簡潔な文体の行動派の作家だった。
『老人と海』は世界的なベストセラーになり、一九五四年にノーベル文学賞を受賞したのは、この作品によるところが多いといわれている。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。