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コラム

後藤英彦のぶっちゃけ放題!
第365回 明治天皇、慶喜が好んだ木村パン

2016-03-10

フランス語のクープ・デユ・モンド・ド・ラ・ブーランジュリーは英語のベーカリー・ワールドカップ、つまりパン世界選手権のことだ。
世界十二カ国からそれぞれ三人ずつのパン職人が集い、限られた材料で規定の品目を八時間で仕上げ、技術とスピードと芸術性を競う。
一九九二年を皮切りに世界選手権は今年で九回目を迎えた。
過去にフランスが三回、日本と米国が二回ずつ、スイスと韓国が一回ずつ優勝している。
今年は初優勝の韓国に続く二位に台湾、三位にフランスが入り、不振の日本は六位に甘んじた。
 小麦粉を水でこねて焼いただけのパンの先祖は今から六千年前、メソポタミアで誕生した。
このあと醗酵パンに進化してギリシャに伝えられ、ヨーロッパ、アジア、アフリカへ広がった。
鎖国が解かれた一八五四年、横浜や神戸でパン作りが始まっている。
文明開化の一八六九年(明治三年)、現存するパン屋で最も古い木村屋総本店が銀座に店を開け六年後に「酒種あんパン」を開発する。
旧幕臣で侍従を務めていた山岡鉄舟の推薦で一八七五年(明治八年)、明治天皇に献上し即皇室ご用達隣となり、全国に広がった。

木村屋総本店の創業主は譜代の一万石牛久藩藩士、木村安兵衛という男だった。
幕府倒壊で失業した彼が行き着いた商いがパン作りだった。
六年ほど前に新宿・木村屋総本店を訪ねた私に、ケース入りの木村屋社史が贈られた。
それによると、新政府の命令で静岡藩預かりになっていた最後の将軍、徳川慶喜は甘党だった。
ご機嫌伺いに静岡を訪ねる鉄舟に、慶喜は木村屋のあんパンを持参するよう懇願したそうだ。
鉄舟は侍従として多忙の身、そうそう静岡詣でもできなかった。
街道一の大親分・清水次郎長に依頼、慶喜にあんパンを届けさせたと異説にある。真偽の程は定かでないが、興味深いエピソードだ。
明治天皇や慶喜を喜ばせたあんパンのヘソには、今に伝わる桜の花びらがのせてあったそうだ。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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後藤英彦

一九六四年時事通信社入社。旧通産省、旧農林省、旧大蔵省を担当後、ロサン
ゼルス特派員。本社海外部次長。途中希望退社して盛岡大学客員教授、評論活
動。二度目の来米でジャパン・ジャーナルを主宰。講談社、エルネオス系を中心
に寄稿中。主著に「日本をダメにした官僚の大罪」(講談社)。中大法学部法律
学科卒業。福岡県出身。グレンデール在住。

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