Los Angelesの顔
No. 57 マーク 鶴田さん 1
2018-03-31
ATV Group Corp. USA社長
―ATV Group Corp. USAでは、新しい電子楽器を開発しているそうですね。
「aフレーム」という電子フレームドラムと電子ドラムの2種類を開発して、アメリカで販売しています。
弊社は、日本の電子楽器メーカー、ローランドの創業者、梯(かけはし)郁太郎が、「原点に戻って、未来を見つめていける、やる気のあるエンジニアと一緒に新しく仕事をしていきたい」と、2014年に立ち上げた会社なので、まだ商品数も少なくて、これからの会社です。
ー電子楽器は、どのように作るのでしょうか。
楽器にはアナログのもの、コンピューターを使ったものなど、いろいろな材料が使われています。では「楽器として一番大事なものは何でしょうか?」「何が入って楽器になっているのでしょうか?」
答えは「アート」です。物にアートを追加すると、それは楽器です。
これを「アートウェア」と呼んでいます。これは梯の造語です。
最近の電子楽器の中身は、ほぼコンピューターと同じですが、コンピューターとの違いは、電子楽器には「アートウェア」という要素が追加されている点です。
コンピューターが動くだけでは、アートにはならない、ミュージックにはならないです。人間としての何か、アートの要素をコンピューターに付け加えると、電子楽器ができます。この付け加える要素を、ハードウェア、ソフトウェアに次ぐ“第3のウェア”「アートウェア」と呼んでいます。
梯は10年くらい前から「アートウェア」と言い続けていました。彼は昨年の4月1日に亡くなりましたが、「ハードウェアとソフトウェアに、アートウェアをプラスして商品を作る」と、梯が生前に言っていたことを信じて、僕らは商品を作っています。
ー「アートウェア」は初めて聞いた言葉です。これはAIでは作れない“何か”なのでしょうか。
僕の個人的考えですが、数値化できるものはAIが作れると思います。いろいろなものを数値化する中で、音というのは非常に数値にしにくいです。自分が好きな音楽、好きじゃない音楽があります。これらを数値で分けられるかと言うと、分けられません。
僕は趣味で将棋をやっていますが、今やコンピューターの方が有段者よりも強くなりました。将棋のソフトウェアは、「これは良い手」「これは悪い手」と判断するために、一手一手をドンドン数値化して、強くなりました。
音楽の極端な例ですが、ピアノで「ド」を弾いた後に「レ」にするか「ミ」にするか、どちらの音が良いかというのは、音の質や曲の様々な要素も含めると、数値化できないと思います。
ギターは、多くの場合、音を歪ませて使います。どれくらい音が歪むと人間は良い音と感じるのか、それは数値で評価できません。
このように数値で評価できないものは、AIには絶対に取って代われないと思います。楽器は、まだまだ人間が生き残れる世界でしょう。
物を動かすソフトウェア以外の芸術というか、音楽性というか、人間の耳でしか評価できないようなところが、「アートウェア」だと思っています。
ー聴覚は最後まで残る機能だと、医者から聞いたことがあります。
耳で評価しているものは、数値化しにくいですよね。だから、その部分では、人間の一番深いところまで入っているのだと思います。音は数値化できるところもありますが、数値化できないところに、人間は芸術を感じているのでしょう。
映像も数値化できません。映画の場合、この場面でどんな動きをしたら良いかとか、数値ではなくて人間の感覚として捉えているところがあると思います。そういう感覚で捉えるところが、すごい芸術です。
<2に続く>
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。