Los Angelesの顔
No.66 大谷 宗生さん
2018-07-14
八巻空手武道家、八巻空手インストラクター
「第1回KWF Kyokushin Championship of America」ライト級チャンピオン
ー「第1回KWF Kyokushin Championship of America」ライト級での優勝、おめでとうございます。アメリカ大陸10カ国からのチャンピオンたちが出場した大会で優勝した感想は。
ここからがスタートです。今、34歳なので現役ができるのは、あと2、3年かなと思っています。次は世界を目指していきます。
僕は小学5年から空手をやってきて、何か一つ目標にあげたものを達成したかった。アメリカ大陸のチャンピオンになることを目標にしてきたので、この歳になって、やっとつかんだ瞬間でした。
「第1回KWF Kyokushin Championship of America」のチャンピオントロフィーを持つ大谷さん(左)
ー勝因について。
他の選手も皆が必死で練習してきた全てを出しきろうとするし、それぞれが周りからの期待を背負って出場しました。特に一回戦で対戦したメキシコ・チャンピオンはとても強くて、戦いは厳しかったですが、僕の今回にかける思いは誰にも負けなかったと思います。僅差でしたけれど、絶対に負けない、絶対に勝つという気持ちで戦いました。
他の出場者は20歳前半で、勢いは彼らの方がすごかったけれど、技術的にはほとんど差がなかったように見えます。しかし、経験と絶対に負けられないという気持ち、僕の勝ちたい気持ちに、相手が折れたと思います。
試合で緊張するのは当たり前なので、緊張して動けなくなるか、いい感じの緊張に持っていけるか。これは、どれだけ練習するか、どれだけ良い練習をするか。「ここまでやった奴はいないだろう」と、自分の中でなったほど、今回にかけて練習を重ねました。多分、勝ったのはその差です。
僕が小学生で始めた空手は、試合のために肉体を鍛えて勝敗を追求する“スポーツ”としての空手でした。しかし、八巻空手は、自己の心身を鍛練する武道としての空手です。
八巻師範はいつも「世界一美しい空手を教える」と言われますが、今やっと僕は、肉体や技を鍛える空手と自己の精神・心を磨く空手の融合を理解できたように感じています。
自分が殴られる怖さや痛みを知ることで、相手の心や身体の痛みが解ります。それが他の人に対する優しさや思いやりに繋がって、更に身をもって己の弱点を教えてくれているという感謝の気持ちが自然に湧いてきます。
その精神と鍛えに鍛えた技と肉体を備えた結果が、今回のアメリカ大陸のチャンピオンだと自負しています。
ー八巻建志師範が指導する八巻空手とスポーツの違いについて。
第6回オープントーナメント全世界空手道選手権大会チャンピオンの八巻建志師範(右)とトーレンス市にある八巻空手道場で
八巻師範の空手は武道です。侍が武器を取り上げられた時の技術を再現しています。師範は、生きるか、死ぬかの空手をやっています。「そんな動きしてたら、斬られて死んでるよ」と言われます。師範は、嘘じゃなくて、本当にそう思って言われています。
普段から、そういう気持ちで空手をやっている人と、審判がいてルールに守られている空手をする人では差が出ます。
また本当に強い人は強さを見せません。僕は弱かったので偉そうにしていた時期がありますが、本当に強い人は、偉そうにもしない。師範を見ると、本当に強い人は、強いから優しいです。それを、僕は「美しい」と言っています。「美しい」とは強いだけでなくて心の優しさでもあります。
八巻師範もよく言われますが、“その人に合った空手”というものがあるから、武道を始める年齢は関係ない。チャンピオンになっても終わりじゃない。武道家は常に刀を磨いて鞘に納めて、常に抜けるようにするというのが、師範の教えです。「だから練習を怠けたらダメだよ」と常に言われます。
スポーツだと肉体が衰えたら下降してしまいますが、武道は年齢がいっても、身体操作や姿勢で若い人と戦えます。だから武道は誰でもできて、奥が深いです。
師範は「俺の空手はまだ完成してない、60歳になって最強になる。6年後の自分が楽しみだ」と、みんなに言われるので、みんなも1ヶ月後の自分が楽しみになってきてます。
また師範は「世界チャンピオンになった時よりも、今のが強い」と言われていて、実際に僕は、今でも一度も師範には勝っていません。僕は現役で試合に出ていますが、師範には勝てないんですよ…すごくないですか。
ー大谷さんから見て、八巻師範の強さはどこにあると思いますか。
師範と一緒にご飯を食べにレストランへ行くと、いきなり「構えて」と言われるので、僕は内心「え、こんな所で!?」と驚きますが、師範はどんな所でも常に練習して、常に空手です。
ー大谷さんの次の目標、将来の夢について。
次はチャンピオン同士の対決があるので、そこで勝って、その次は世界です。
僕は、自分が強くなるだけではなくて、子供たちに教えて子供たちの試合を見るのも大好きです。
僕は小さい頃は喘息で、走ったり跳んだりすることを止められていたので、運動は苦手でした。弱虫で、ビビリで、自信もなかった。その反動で他人に大きく強く見せようと虚勢を張って、そんな自分が嫌いで、本当に強くなりたかった。空手を小学校で始めて、こんな僕でも諦めずに頑張ったら、アメリカ大陸のチャンピオンになれました。
子供たちには、空手を通してどんな困難にも立ち向かえる強い心、人を思いやれる優しい心、集中力や努力は自分を決して裏切らないことを知ってもらいたいです。死ぬほど練習しても後一歩で優勝を逃した悔しさ、一回戦で敗れてしまった屈辱があっても諦めず、努力して鍛練を続けて、初めて得られる喜びを伝えたいです。
また2020年には空手がオリンピック競技にもなるので、オリンピック選手を育てるのも夢の一つです。オリンピックの空手は極真空手とも異なりますが、八巻空手は武術なので、どんな競技にも通用すると思っています。ルール関係なしで通用する空手です。だから、生徒たちには、いろいろな競技に挑戦させたいと思っています。
【2018年7月14日掲載】
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。