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コラム

Los Angelesの顔
No. 68 大澤広暉・Hiroki Oshawaさん 2

2018-08-25

コメディから人間ドラマまで

◆薬物中毒になったロックスターの人生を描いた映画『Pandora's Box』では主演のケビン・ダリーさんが、ベストアクター賞を受賞した。ケビンさんはどんな俳優か。

ケビン・ダリーさん 映画『Pandora's box』より


 『Pandora's Box』以前にケビンとは一緒に撮影をしたことがありました。彼の映画制作に対する熱意や撮影現場での態度に感銘を受け、いつか彼主演の映画を撮りたいと思っていました。キャラクターへの理解を深めようとする真摯な姿勢、時間やスケジュールに正確なプロ意識、そして監督である私やその他クルーとの撮影現場での協調性から、誰にでも「もう一度一緒に仕事をしたい」と思わせる俳優です。

◆ケビンさんへの演技指導は。

 各シーンにおけるキャラクターのバックグラウンド、置かれた状況、精神状態などについて私の考えを詳しく説明し、それらの条件下であれば彼の演技力を信じてある程度自由に演じてもらいました。

 私は「ここは悲しいシーンなので泣いて下さい」という演技指導はしません。なぜなら、悲しくて笑う人もいるからです。アクターがシーンやキャラクターを十分に理解した上で演じるのであれば、それが仮に私のイメージと違っても逆に面白い場合もあると考えています。

◆大澤さんにとって『Pandora's Box』はどんな作品になったか。

 これまで「ふざけたコメディばかり撮るふざけた監督」と思われていた私が、人間ドラマも撮れることを証明した作品となりました。また、ノミネーションなども含め、計9つの賞を頂き、自分の中で最多受賞作品となりました。


映画『The Alc-Man』のワンシーン


「日本」が求められている

◆これまで大澤さんが夢を叶えるためにしてきたことは。

 私はまだまだ未熟者ですから、むしろ私の方こそ先輩方からご教授願いたいくらいではありますが、現時点で私が言えることは「何でもやってみる」ということでしょうか。

 ハリウッド映画業界と言えども大変狭い世界であり、コネが全てです。イチかバチかで新たな人材を採用するくらいなら、この前の撮影でちゃんと仕事をしていた「あの人」をまた呼ぼう、となるわけです。ですから、どうにかして「あの人」になるためにコネの一端を掴み取らなければならないのですが、それには選り好みせず、無給だろうが何だろうが仕事を探して飛び付くしかないと思います。

 現在、私は大小複数の映画、TV、Webシリーズ等のプロジェクトに関わっていますが、ほとんどが最初は小さなボランティアとして参加したものです。もしあの時「報酬がなければやらないよ」と言っていたら、どこの馬の骨とも分からぬ私に目を留めてくれる人などいなかったでしょう。

 …とはいえ、そういった無償の努力の9割は報われませんから、それでもなお全ての仕事に全力で取り組む覚悟が必要です。

 また、「何でもやってみる」の「何でも」は映画業界に限った話ではありません。むしろ他業種の方々との出会いが仕事に繋がることもあります。特に私の住むLAは「石を投げればFilmmakerに当たる」と言われるほど映画関係者がいます。タクシーで相乗りするとほとんどが映画関係者です。運転手まで映画関係者だったりします。そんな環境で、例えば監督である私が映画関係者の集まるパーティーに参加したところで、なかなか監督の仕事はもらえません。なぜなら、そこにいる監督全員が仕事を探しているからです。それよりは、全くの異業種の方々の中に飛び込む方が、映画監督としての自分のブランド価値が相対的に上がり、仕事を頂けたりします。もちろん、こちらも9割は報われません。

◆アメリカで仕事する中で、自分の日本人気質を感じる時は。

 時間を守る、というのは日本人にとっては当たり前ですが、アメリカでは大きな強みです。世界には、想像を絶するほど時間にルーズな人が大勢います。彼らは時間を守るだけで四苦八苦しており、信用を失っています。世界的に見ると特殊能力である「時間厳守」というスキルを自然と身に付けている日本人は、すでに優位に立っていると言えるでしょう。

 一方で、真面目すぎるがゆえに働きすぎることもあります。私もしょっちゅう寝食を忘れて仕事に没頭してしまいます。そんな私を見たアメリカ人たちは「ヒロキは30年後には第二のクロサワになるだろう。でも10年後に過労死するから、結局なれない」と冗談を言います。

◆これからの映画制作について。

 今までにない切り口で、日本文化を世界に発信できる作品を作りたいと考えております。

 日本はすでに世界的に知名度・関心度が高いものの、それらのポテンシャルを十分に活かし切れておらず、もったいなく感じます。日本人として日本の国益に少しでも貢献できれば、日本人冥利に尽きます。

 また言語的ハンデを抱え、文化的理解も乏しい「外国人」がアメリカで何かしようとした場合、よほどのことがない限りアメリカ人と同じ土俵で戦っても勝ち目はありません。そもそも、アメリカ人は日本人にアメリカ的センスなど求めていません。彼らが日本人に求めているものは、文字通り「日本」です。つまり、私は「日本人である」という事実がピンチをチャンスに変える強力な武器になると信じています。その武器を最大限に活かした映画制作を目指します。

【大澤広暉・Hiroki Ohsawaさん】
https://hirokiohsawa.wixsite.com/hirokiohsawa

<2018年8月25日掲載>


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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