ピアノの道
vol.12 音楽と視覚
2019-06-19
“Your eyes can deceive you. Don’t trust them. Stretch out your feelings. (目は欺くことがある。視覚に頼るな。感覚を研ぎ澄ませ。)。” スターウォーズ・ファンなら、オビ=ワン・ケノービが主人公のルークにジェダイの精神を伝授している場面が目に浮かぶセリフです。これ、ピアノでも当てはまるんです。
ピアノを弾きながら楽譜と鍵盤を両方同時に見ることは出来ません。このジレンマは象徴的でもあります。音楽に集中するのか、ピアノを弾くと言う行為に集中するのか?答えは、「見ない」。見ない事によって、音楽(知的把握)と演奏(肉体的行為)と感情(心)のバランスを取る事が可能になります。理想的には、見るのは準備段階で済ませて、演奏中は視覚は超越したいんです。
目を閉じると音楽の感情的効果が高まると言う研究結果があります。目を閉じると記憶した事実をより正確に呼び起こせる、と言う研究結果もあります。地名・人の名前・本のタイトル…思い出せないときは、目を閉じてみてください。古代ギリシャの数学家ピサゴラスは、垂れ幕の後ろで講義した、と言う伝説があります。その方が聴講者が自分の講義の内容をよりよく理解する、と主張していたそうです。
視覚を排除すると、他の感覚が生きてきます。「鍵盤を味わえ!」と先生に言われたことがあります。鍵盤の感触を楽しみながら弾くと、音色が良くなるんです。更に、見ることにとらわれないと、姿勢が伸びて上体が自由になります。呼吸が深くなり、重心が下がり、気持ちも体も安定します。上体が安定すると、耳の位置が一定化し、音を客観的に聞けるようになります。ピアノを「じゃーん」と鳴らして上体を鍵盤に近づけたり遠のけたりしてみてください。それだけでいかに音の聞こえ方が変わるか、びっくりされると思います。
まだ学生の頃、窓の無い練習室で電気を消して真っ暗闇の中で真剣に練習していたら、警備員が不審に思ってドアを開けるんです。半端でない集中度で練習しているので本当にびっくりして、毎回悲鳴を上げました。警備のおじさんだって、びっくりですよね。
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https://musicalmakiko.com/en/?p=1138
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

