Los Angelesの顔
No. 84 星埜 李奈(ほしの りな)さん
2019-06-20
女優、声優、歌手
◆李奈さんは、先月、全米と日本で公開された映画『Pokémon Detective Pikachu』(邦題『名探偵ピカチュウ』)に登場するポケモン「ミュウツー MEWTWO」の声を演じています。大人気の最強ポケモン「ミュウツー」を演じることが決まった瞬間は、どんな気持ちだったでしょうか。
エージェントからの電話で、まず朝飛び起きました!「リナ、あのテイクがよかったって!あなたを雇いたいそうよ!」って。
それを聞いて、私はパニック状態で…心の中で「え!?え!?わー私受かったんだ!!!!!!…あれ…どの作品に受かったんだろう…?」って。するとエージェントが「でね、『Pokémon Detective Pikachu』の録音日なんだけど、どうやら…」と話していて、私は『Pokémon Detective Pikachu』という単語だけが、もんのすごく鮮明に聞こえてきて目が飛び出そうになって。その後はエージェントが話したことは右から左状態で…ある意味、ダブルサプライズでした。布団をグチャグチャにして、その上で跳ねてましたね。素直に嬉しくて。
◆録音の時は、どのような感じでしたか。
Warner Bros.スタジオでの録音は初めてで、その上、方向音痴なもので迷いまして…。ドアがたくさんあって、どれを開けていいのか分からず、もしドアを開けて録音中でもまずいし…廊下をウロウロと徘徊し、録音が始まっちゃったらそれこそ無責任な話なので、エージェントにコソコソ電話して。
結局エージェントがプロダクション側に連絡を入れてくれて、もう一人の「ミュウツー」役の渡辺幸太郎さんが救世主のようにスタジオのドアを開けてくれて、タジタジ状態のもう一人の「ミュウツー」(つまり私)を救い出してくれました。ありがたかったです。
レコーディングに関しては契約上、詳しく話せませんが、素晴らしい作品に関われて、また成長できるきっかけをいただいて本当にありがたかったです。
チーム同士の「良いものを作りたい」というすごくいいエネルギーがスタジオの中に充満していたので、レコーディングがとても円滑に進み、私自身も「私の中にあるすべてを120%出し切ろう」と完全燃焼してきました。(笑)すごくすごく楽しかったです。
◆アニメやコミック関連の作品に多く出演していますが、以前からアニメをよく観ていましたか。
私は中学3年の時にアメリカに来ましたが、その前は家族で見られるような王道のアニメ(サザエさん、ワンピース、ジブリ作品など)しか見たことがありませんでした。
渡米後、アニメ好きなアメリカ人たちから、“一つの芸術作品として”アニメの素晴らしさを知るきっかけを与えてもらって…。
演技だけではなく制作側の友人たちを通して、カメラアングルや編集、照明、ストーリーなどが、どのように作品に影響するかを知り、このようなディテールに着目してみるとアニメって本当にすごいなぁと再認識させられました。
星埜李奈さん(右)が出演する『The Deserters』 の撮影現場より
◆『Pokémon Detective Pikachu』のように原作がアニメだったり、またはコミックだったりした場合の実写版は、ファンの期待値も高く、評価も厳しくなりがちだと思います。将来、このような作品には、どのような心構えでチャレンジしますか。
将来的に、私も一ファンとして取り組む作品が増えると思うので(笑)、ファンの方たちの気持ちはよく分かります。
例えば、伊坂幸太郎さんの小説『アヒルと鴨のコインロッカー』を読んだ後に中村義洋監督の映画『アヒルと鴨のコインロッカー』を観た時は、映画館で「なんと!こういう風な捉え方もあるんだな」と逆に気づかされることも多かったり。脚本や作品の仕上がりを通して原作に対するリスペクトが感じられました。また逆もありで、映画を見たことで原作を読むきっかけをもらったりもします。
アニメやコミックの実写版も同じだと思います。今回の『Pokémon Detective Pikachu』もそうですが、世界観やキャラクターたちを通して、何か作品から作り手の愛が滲み出てくるじゃないですか? すごいエネルギーが伝わってくるというか…。
将来、「このアニメ・コミックが好きでたまらない」「日本の文化そのものに興味がある」というようなクリエイターに出逢えると嬉しいです。
また実写版を制作する時、全て、アニメ・コミックを忠実に再現するのではなく、脚本の段階で「ここはアニメ・コミックだったらあり得るけれど、実写版だったらこうなるよね」とか、臨機応変に対応できて、オリジナリティも尊重できるようなチームの一部になれたらなと思っています。
◆日米両国で仕事をして、違いや共通点などありますか。
声に関しては、以前、日本で数本の吹替作品やインターネットラジオなどに出演させていただき、島本須美さんに師事して、ナレーションの基礎を学びました。
母が日本で声優をしているので、母に声の出し方などを教わりました。私が幼い頃、母は私を寝かしつけた後に、夜中に何度もテープ(動画)を見ながら声をあてて練習していたのをよく覚えています。そんな一生懸命で努力家の母から、キャラクターに声をあてる魅力を教わった気がします。
日本語と英語は根本的にイントネーションや強調する台詞の部分も違いますし、文化的価値観なども大きく違うので、基本的に全く別物と理解しながら作品に取り組むようにしています。
アメリカでの録音に関しては、オーディションの時、タイトルや原稿だけでなく役名さえも偽名だったりします。オーディションを受ける際に与えられる内容はすごく制限されているので、その分、想像力が求められます。
また自分が出演している作品をリリース当日まで全く宣伝できないケースが多いので、ちょっと、いや、かなり残念です。(笑)
声の場合、出演者一人一人が別録りだということも大きな違いですね。
顔出しに関しては、撮影前日に原稿をもらったり、当日に変更があったりと、演者側からしたらハラハラドキドキですよね。(笑)
星埜李奈さんが主題歌を歌うアニメ・モバイルゲームの録音現場より
◆これまでで、李奈さんが影響を受けた人は誰でしょうか。
う〜む。たくさんいます(笑)が、振り返ってみると、先生や講師の方々が多いかもしれません。
小学校の頃は榎本喜代美先生です。当時、私は、夏休み前になると“外国に行って、いなくなる問題児”と噂されていて、敬遠されがちでした。榎本先生はそんな私に「なんだ!問題児って周りが言うからどんな子かと思ったけど、普通の子じゃん!」と、私の背中をバンっと叩いて、気さくに声をかけてくださいました。お別れする際には、「あなたが住む世界は地球です。大きく大きく国際人に成長してください」とお手紙をくださって、今でも大事に持っています。
中3からアメリカに移り、高校生までの4年間は、周りが英語だけの環境でした。当時、私はまだ英語を話せなかったので、他の人が何を話しているか、宿題が何なのかも分かりませんでした。なので先生方にはお世話になって。(笑)死に物狂いで授業に出ましたが、本当に素晴らしい先生がたくさんいて、本当に恵まれた環境だったのでラッキーだったと思います。
そんな状況の中、私は、言葉を話す必要のない、言語に縛られないタップダンスに没頭しました。オフ・ブロードウェイ出身のシェリル・ジョンソンさんに師事して、『タップダンス・クリスマスキャロル』という舞台を踏むきっかけをいただきました。
舞台のレベルについていくために、より高いレベルのクラスで学んだことや没頭するとやめられない私の性格が相まって足首を痛めてしまったこともあったりで。シェリルさんは私に足を強くするコツなどを優しく厳しく教えてくださって、私は彼女には頭が上がりません。
体全身が筋肉でできていて、まるでバネでできているかのような跳躍をしながら華麗に踊るピーターパンのようなシェリルさんが私は大好きでした。リハが終わると毎日一人で練習を続ける彼女の姿を見て、丹念に努力を続けるとはこういうことなんだなと教わりました。
他にも素敵な人生の先輩方にきっかけをいただきました。色々な方々から助言をいただき、私は本当に幸せ者だなーと思います。
◆女優、声優、歌手、どれが一番好きですか。
どれも好きですね。それぞれ表現の仕方や求められるテクニカルなスキルが違うだけで、どれも根っこの部分は一緒だと思っています。今回のプロジェクトをきっかけに顔出しにもたくさん繋がっていってくれたらいいなと願っています。
◆これからの活動について。
契約上詳しくは言えませんが、現在、ビデオゲームのプロジェクトが複数あり、TVシリーズが準レギュラーで一本あります。また日中合作のアニメ・モバイルゲームの主題歌を歌っているので、それが今年リリースされます。是非、応援をよろしくお願いします!
以上のプロジェクトは歌以外は全部英語ですが、将来的にはアメリカと日本の両国で仕事ができたらなと思っています。
星埜李奈(ほしのりな)さんSNS
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※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。