Los Angelesの顔
No. 86 ユカリ・ブラックさん
2019-08-31
女優・歌手・日英バイリンガル司会・イベントプロデューサー・
クロ プロダクションズ オーナー
◆9月20日から22日に上演される舞台『羅生門Rashomon』に出演するきっかけは。
舞台『羅生門』には、アメリカに来てまもなく母役で出演したことがありました。母役は黒澤明監督の映画『羅生門』にはありませんが、1959年にフェイとマイケル・カニン夫妻が書いたブロードウェイの舞台『羅生門』に登場します。
21年前に『羅生門』の素晴らしさに触れて、いつか妻の役を演じたいと思っていました。
この度、『羅生門』をやりたいと言う2人のプロデューサーと話が持ち上がり、劇場に空きが出たということが重なり、突然の上演が決まりました。
『羅生門』の内容も、最近、よく話題となる事柄にも重なります。例えば、性的行為がお互いの承認の上であったのかどうか、女性の人権についてなどです。今回は、原作では男性として描かれている役を女性が演じる工夫もあります。
◆久しぶりの舞台だそうですね。それも、急に出演が決まったとか。
この2年間は音楽活動だけに集中していたので、今年はレコーディングをする予定でした。ところが、今年の誕生日に、舞台の予定はなかったのですが、なんとなく「今年は音楽活動に励み、もしかしたら、女優業にも戻るかも…」とFacebookに載せてしまいました。その後で『羅生門』の舞台の話が持ち上がり…あまりに突然で上演まで時間もなかったのでプロデューサーとしては躊躇したのですが、周りにも押されて覚悟を決めました。これは命がけです。
『羅生門』の稽古風景。(左から)ユカリ・ブラックさん、トニー・キムさん、演出家のアラマズド・ステパニアンさん
◆ユカリさんが、今回、演じる役について。
映画『羅生門』は、芥川龍之介の2つの短編小説『藪の中』と『羅生門』をもとに、黒澤監督が映画を制作して、世界で有名になりました。
殺人、そしてレイプの事件について、4人の目撃者の証言をもとにストーリーが展開し、人間の本質を追求する作品です。
私が演じる妻役は、事件を目撃した4人の人物が、それぞれに証言をする回想シーンに登場します。妻は一人の人物ですが、4人の証言が全く違うので、4つの性格の妻を演じます。
深く、さまざまな人間心理によっての行動を考えさせられます。人間の心理は多様で…私自身が持っていないものも出せるように、探っています。
4人の証人の視点から捉えた“妻”は、それぞれ違う性格の人物です。ある証人からは悲劇のよう、ある証人からはコメディーのようで、一つの舞台でいろいろ演じられるのは、とても楽しいです。
『羅生門』の稽古風景。(左から)ジョ・サンさん、ユカリ・ブラックさん、トニー・キムさん
◆現在、他のキャストたちとの稽古が続いていますが、現場はどんな感じですか。
オーディションで、それぞれの俳優たちが、持ち味を出してくれて大変ありがたかったです。オーディションには時間をかけました。
選ばれた俳優たちが、それぞれの力を出し合って、しのぎ合いながら大作に挑んでいます。稽古中は、みんな、とても真剣です。
どの役も“主役”と言っていいほど重い役柄ですが、時々ジョークを飛ばしたりして、笑い合ったりして、良い雰囲気でやっています。
◆『羅生門』は原作が日本で作られ、登場人物は日本人ですが、今回は多様な人種の俳優が演じます。俳優の皆さんは今回“日本人”役を演じることに、何か工夫をしていますか。
“妻”役は私と和美ザトキンさんとのダブルキャストで日本人俳優ですが、他は、とても多様な人種のキャストです。
皆さん、日本人を演じると言うよりも、日本人の気質や所作を踏まえて人間の本質の人物像を演じてくれています。
『羅生門』の殺陣の稽古風景。殺陣は、タダヒロ・ナカムラさんとマサ・コノメさんがコーディネートしている
◆今回の舞台『羅生門』の見所について。
芥川龍之介の得意とする、人間の深層心理を表しながら仏教の教えを伝えることができたら良いなと思います。悲劇あり、コメディーあり、そして、殺陣のアクションありと、展開を楽しめると思います。
この舞台の脚本は、フェイとマイケル・カニン夫妻が書いたもので、トニー賞を受賞しました。黒澤監督の映画『羅生門』には出てこない母役という、もう一人の人間像が加えられて、映画とは一味違います。
また舞台は、観客の目の前で、物語りを生の人間が見せるので迫力があると思います。
◆ユカリさんは、これまで日米で多くの舞台や映画に出演しましたが、日本の物語を演じるのと他国の物語を演じるのとでは、何か違いますか?
私の中では、あまり違いはありませんが、やはりその国のそれぞれの文化や考え方を踏まえて、なるべく忠実に演じることが大切だと思います。
◆舞台以外にも、いろいろな活動していますが、今後の予定は。
音楽活動も続けて、レコーディングも行う予定です。また18年間続けているシニアの方々のためのエンターテイメントのボランティア活動も続けます。
芝居については、日本の古典ものを英訳して脚色し、多様な人種の方々と一緒にアメリカならではの作品を制作していきたいと思っています。
舞台『羅生門 RASHOMON』
黒澤明監督の「羅生門」を元にフェイ & マイケル・ カニンが脚本を書いた「RASHOMON」。
千年以上も前の京都。羅生門の前である事件の証人になった僧侶と木こりが事件を振り返っていた。4人の目撃者はそれぞれ全く異なる証言をした。一体、何が真実なのか?ユーモアを混じえながら人間の本質を問う作品。
日時:
9月20日(金)8pm
21日(土)3pm&8pm
22日(日)2pm&7pm
場所:Atwater Village Theatre
3269 Casitas Ave., Los Angeles, CA 90039
チケット:一般$25、シニア$20、
2回目購入$10
オンライン:rashomon.eventbrite.com
TEL:818-769-5697
*妻役はダブルキャスト
ユカリ・ブラックさんの出演は
21日(土)3pmと22日(日)2pm&7pm
和美ザトキンさんの出演は
20日(金)8pmと21日(土)8pm
ユカリ・ブラックさんプロフィール
玉川大学にて舞台芸術の学士取得。SAG-AFTRAに在籍しUnionの舞台でも活躍。舞台は『王様と私』のLady Thiang役、映画は『硫黄島からの手紙』『父親達の星条旗』が代表作。映画やイベントのプロデュースも手掛ける。 『太渡』のCD (tytmusic.com)をリリース。2014年にクロプロダクションズ設立。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。