Los Angelesの顔
No. 89 降矢 歩さん 日本語学校 FUJI SCHOOL 校長・CEO
2019-10-05
◆海外の人に、初めて日本語レッスンをした時について。
以前、語学留学していた際に、友人から日本語を勉強していたアメリカ人を紹介してもらいました。
彼女は日系2世で、戦争中の7歳の時に日系人収容所に収容された経験をお持ちの方でした。当時は、日本語を使わない方がアメリカでは生きやすい時代だったそうで、彼女はほぼ英語だけで育ちました。
大人になってから自分のルーツである両親の出身地を訪問されて、その時に日本人の顔なのに日本語を話せなかったことで、周りから変な目で見られることもあったそうです。
自分の親の言語を話したい、自分のルーツを大事にしたい、日本旅行の際には日本語で話したいという思いがあって、彼女は日本語を勉強し始めたそうです。
彼女は10人ほどのグループで日本語を学んでいたので、のちに私が教えるようになりました。これが私の“日本語レッスン”の始まりです。現在も、その学生たちに教えています。
この体験から、日本語を学びたい人は他にもいるのでは…と思いまして、日本語レッスンのことをインターネットの情報サイトで発信したところ、日本語を勉強したいという方々からご連絡をいただきました。その中には、子供の頃に遊んでいた日本のゲームやアニメに影響を受けた20〜40代のアメリカ人が多かったです。
◆日本語の魅力について。
日本語は語彙数が多く、言い回しや表現が多いところが魅力です。また自分の感情や相手への敬意を、言葉単位の単語ではなく、文法や言い回しに含ませられるところも魅力です。
アメリカ政府の調査でもアメリカ人にとって一番難しい言語が日本語です。その理由は語彙数が多いこと。語彙数が多い分、色々な事柄や物を違う語彙で表現できます。また、それに伴った言い回しや表現も増えます。
例えば、尊敬語、謙譲語、丁寧語とあるように、相手への敬意を表すことができます。「食べる」という単語は、英語では「EAT」の一つの単語しかありませんが、日本語は「召し上がります(尊敬語)」、「お食べになります(尊敬語)」、「食べられます(尊敬語)」、「いただきます(謙譲語)」、「食べます(丁寧語)」と、使い分けることができます。
英語で「Thank you for choosing me」を直訳すると「選んでくれて、ありがとう」が一番近いでしょうか。
「選んでくれました」、「選んでもらいました」というように、「〜てくれました」「〜もらいました」と言うだけで、「ありがとう」を使わずに感謝の気持ちがこもっているのが分かります。
フジスクールで、日本語を教える降矢さん(奥)
◆現在、ロサンゼルスにて日本語を学習する人は増加しているようだが、フジスクールの学生は、何をきっかけに日本語学習を始めたのか。
フジスクールを2012年に開校して、7年間で1460人が入学しており、日本語学習者は増えていると思います。
学生の多くが20代~40代で、日本のアニメやゲームに影響を受けた人が多いです。日本旅行をするために勉強を始める人も多いですし、実際に訪日して、さらに日本文化や日本人を好きになって、日本語を勉強したいという人もとても多いです。
例えば、シンガーソングライターで女優のアリアナ・グランデさんも日本へ3回行ってから、日本人の礼儀正しさを感じて、日本人とは日本語でコミュニケーションをしたいという気持ちから、日本語のレッスンを受けるようになりました。
◆今年の夏に「アニメエキスポ」で行った日本語レッスンについて。
300人が受講しました。皆さんに人気があって、すでに英語字幕で見たことがあるだろうアニメを教材に使って、レッスンをしました。
教材は「食戟のソーマ」、「ワンパンチマン」、「君の名は」、「千と千尋の神隠し」です。
物語の一部を再生して、受講生に日本語を聞いてもらい、その日本語を説明しました。そしてアニメ口調から、受講生が普段に使える口調へと変えて教えます。
3人の日本語教師がパネラーとして登壇して、一人が先生役、二人が学生役をしました。学生役は女子高生の制服を着て、ビジュアルですぐに“学生”だと分かるように工夫しました。このように役分けをすると、学生役が発言することで会場の受講生と一体化できて、レッスンを進めることができます。
レッスンは参加型で行ったので、受講生の皆さんはとても積極的で、かなり盛り上がりました。レッスン後のアンケートでは、ポジティブなフィードバックをいただきました。
「アニメエキスポ」で開催された日本語レッスンの様子
◆アメリカにおいて日本語学校を設立する重要性について。
アメリカだけでなく、世界に日本語教師が増えれば、日本経済は良くなると考えています。
実際、フジスクールの学生も、自分が勉強した日本語で日本旅行がより楽しくなり、再度、訪日したり、旅先で店員と会話ができたことで、さらに日本の物を買ったり、食事中に隣の日本人と話ができて気分が良くなって、もう1杯ビールを注文したりと、アメリカ人がアメリカで稼いだお金をたくさん日本で使ってくれています。
◆フジスクールが力を入れていることは。
日本語はアメリカ人にとって、一番難しい言語とされているので、学生に楽しいレッスンを提供できるよう、フジスクールの先生は「レッスンはパフォーマンス」と思っています。そのための準備は怠りません。
基本的な教科書を使いますが、レッスン内容は、一人一人の学生の仕事や生活の環境にあったものを題材にして、学生のモチベーションが続くように努力しています。
先生の教える力が日々伸びるよう、定期的に先生会を行い、教務主任による先生へのレッスンを行い、フジスクールオリジナルのモデルレッスンビデオを視聴したり、他の先生のレッスンを見学してレポートを提出し、日々、先生たちはより良いレッスンの研究をしています。
基本、教室のドアを開けたままレッスンをするのは、他の先生の良いところを、マネできるためです。
また、フジスクールが学生にとって一つのコミュニティーであるように、ハローウィンパーティやクリスマスパーティーを始め、定期的に学校主催のイベントを行い、学生同士のつながりができるようにも努めています。様々なイベントへの引率もしています。
フジスクール主催のクリスマスパーティーでは、学生と先生が一緒に楽しみ、交流を深める
◆今後の抱負について。
日本語教師は、なんとなく地味なイメージがあると思います。フジスクールは楽しい、アメリカ人がたくさん集まる、イベントも大盛況、いつも笑いが飛び交っている、そんな環境をたくさんの人に知っていただき、日本語教師が、多くの方々にとって憧れの職業となるイメージを作っていきたいです。
今年は、「アニメエクスポ」と「コミコン」でも日本語を教えるパネラーをさせていただいて、一歩、そこに近づけたように思っています。いつも、きらきらした私たちでいたいです。
ウェブサイト: www.oh-fuji.com
Instagram: @fujischool
Facebook: @fujischool.la
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。