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コラム

Los Angelesの顔
No. 91 桐沢 暁 さん ドラマー

2019-10-26



◆現在の活動は。

音楽学校のLos Angeles Music Academyを2007年に卒業してからフリーランスのドラマーとして年間500以上の現場で演奏しています。メインはジャズで、世界的に有名なトランペットプレイヤーのカール・サウンダース率いるビッグバンドや元陸軍音楽監督が率いるラテンバンドで演奏しています。それとナイトクラブのダンスバンドなど、声がかかれば何処へでも演奏に行きます。

中でも好きなのはミュージカルの演奏で、8月にはカノガパークの劇場で上演された「シカゴ」で演奏しました。来月はニューベリーパークで上演される「シンデレラ」に参加する予定で、もうすぐリハーサルが始まります。一つでも間違えると舞台進行がすべてが滞る可能性があるので緊張しますが、この緊張感がたまらないです。

◆LAを活動拠点にしたのは。

習いたかった先生がいた音楽学校がLAだったので、留学生として来ました。自分の演奏でお金を稼ぐというプロとしての経験を数多く積むことができたのも、LAが商業音楽都市だったお陰だと思います。

お金を稼ぐことで、相手が何を欲しているのか、このビジネスがどう成り立っているのか、その為にはどのような演奏が必要なのかなどを肌で学びました。これらは絶対に学校では学べないことで、LAという街だから出来たことだと思います。

(写真左)カール・サウンダース(右)と桐沢さん、(写真右)ブラジルの有名なミュージシャン、セルジオ・メンデスが率いたバンドでボーカルを務めたボニー・ボーデン(左から二人目)の バンドで活動する桐沢さん(右)


◆ドラムの演奏で大切にしていることは。

クライアントの要望に応えることです。この場合の“クライアント”とは単にお金を払ってくれる人を指すのではなく、時にはバンドメンバーも意味します。バンドメンバーが何を欲しているか、そのためにはどのような演奏をするか、的確に判断することが重要です。バンドというチームの一員として「何が必要か?」を常に大切にしています。

◆今までで忘れられない出来事は。

学生時代にナイトクラブのダンスバンドで演奏した時、演奏中から何かが噛み合わない感じがして、そのまま演奏を終えました。後で録音した演奏を幾度も聞き直しましたが、何が噛み合っていないのか分かりませんでした。楽譜通りに演奏したのですが、何かが決定的に違っていました。

僕は学校ではかなり優等生で奨学金も得ていましたし、アメリカへの留学費用も日本でプロとして稼ぎました。しかし日本での経験も音楽学校での経験もアメリカのナイトクラブでは役に立たず、アメリカのプロはこんなに違うんだと思い知らされました。そして、このまま日本に帰るわけにはいかないと思いました。

◆そこで気がついたことは。

自分の演奏とアメリカのプロの演奏では何が違うのかを悩んでいた頃、ある大学教授が言った言葉が僕の人生を変えました。

「アメリカの音楽教育には重大な欠陥がある、それはリズムを紙で教えてしまったことだ」。

僕らは音楽教室や教科書を通してリズムと出会い学んできましたが、これは西洋式に分析されたリズムです。アメリカの音楽教育も、世界の音楽教育も西洋式で作られ、日本も例外ではありません。

僕はアメリカの音楽学校を卒業することが最高の教育を受けた証だと思っていましたが、それだけでは全く足りないと、体験で知りました。

ロナルド・レーガン大統領博物館で演奏する桐沢さん(後列左)


◆西洋式に分析されたリズムとは。

西洋式のリズム表記法では、縦の小節線を引き、音の長さを定めて四分音符や八分音符などの音符で表します。他人に教える場合この方法はとても便利で伝えやすく、言語が異なっても同じリズムを表現することができます。文字と同じで共通認識さえあれば地球の裏側の人にも簡単に伝えられます。

しかし、西洋式で解析されたリズムは、果たして“本当のリズム”でしょうか?

◆リズムとは。

音楽の三大要素はメロディー、ハーモニー、リズムです。メロディとハーモニーはヨーロッパで発達しました。一方、リズムは西洋式に分析・解析されるよりずっと前から存在しています。 

リズムは、奴隷としてアメリカに連れてこられたアフリカ人たちによってアフリカのリズムがアメリカに渡り、西洋のメロディとハーモニーと混ざり合って、近代音楽の基礎になりました。

僕らは音楽を西洋式で学んだために、リズムをアフリカから見直すということを、今まで、ほとんどしていません。
 
アフリカ・ギニア出身の打楽器奏者、ママディ・ケイタの講演をYoutubeで見たことがきっかけになり、僕は自分に足りないものやアメリカのプロとの違いの秘密がアフリカにあるのではないかと考えるようになりました。

YoutubeやDVD、書籍やCDなど様々な媒体でアフリカのリズムについてリサーチを重ねました。

アフリカでは今でもリズムが生活の基盤となっています。フランスで制作されたアフリカの動画『リズムのない動きは一切ない』では、「話す」「米を研ぐ」「鉄を打つ」「木を切る」「歌を歌う」「子供をあやす」「歩く」「走る」「踊る」「舟を漕ぐ」など、生活の様々な場面で人々が同じリズムで息の合った行動をしている様子を、映像で見ることができます。

本来、僕らが持っていた『人間の自然なリズム、文化の中で培ってきたリズム』は、教科書でリズムを学ぶうちにいつの間にか『分析し考えられたリズム』に置き換えられてしまった可能性があります。

アフリカのリズムと出会い、僕の演奏の全てが変わりました。まずリズムを操っているという感覚が芽生え、絶対的な自信を持って演奏できるようになりました。

例えば、他の人の演奏テンポが早くなったり遅くなったりしても、自分の中にリズムの軸ができているので、落ち着いて安定したドラムを叩けるようになりました。“体からリズムを出す”という感覚が身につくと、学生時代にナイトクラブで抱いたチグハグ感は解決し、周りからの評価も確かなものになってきて、仕事の依頼の声もたくさんかかるようになりました。

「リズムはアフリカから来た」という言葉は、僕にとって「人類はアフリカから誕生した」と同意語と言えるほど重要な言葉ですし、大きな発見でした。

◆今後の予定は。

音符で表現する西洋式の音楽教育では説明できないリズムの秘密を研究し、音楽の現場で実践しています。この成果をYouTube やツイッターで発信しています。

『リズム下克上』シリーズとしてYouTubeにアップし、これまでの西洋式の音楽教育に真っ向から挑んでいます。これが好評なので書籍化する準備を、現在、進めています。

そして僕自身もいつかアフリカへ行き、アフリカの空気、自然を感じ、アフリカのリズムをさらに深めていきたいと思っています。


LAの若手ジャズミュージシャンで編成されたバンド「New 9」で演奏する桐沢さん(中央後ろ)

Youtube: Satoshi Kirisawa リズムで世界と戦う 歩き方の学校
www.youtube.com/channel/UCIEL-rL6TzKze5EsLP-YqMw

Twitter:@KirisawaSatoshi 人類 みな 元アフリカ人


桐沢 暁(きりさわ さとし)プロフィール 
プロドラマー。東京都中野区出身。
2007年、Los Angeles Music Academy卒業後、アメリカでプロとしての活動を始める。主な共演はカール・サウンダース、ロサンゼルス市警音楽隊、ジェシカ・サンチェス、ボニー・ボーデン(セルジオ・メンデス&ブラジル77)、ロジャー・ニューマン、グラント・ゲイスマンなど。日本での主な共演は、竹原ピストル、坂本真綾など。
主なミュージカル作品は、「ピーター・パン」、「ピピン」「ヘアー スプレイ」「キャッツ」、「コーラス・ライン」「シカゴ」など。
今までのリズム教育に疑問を投げかける「リズム下克上」をTwitterとYouTube で発信中。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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