Los Angelesの顔
vol. 92 山本 美和子 さん
2019-12-21
フリーランス公認医療通訳者・翻訳者
(メンタルヘルス、人の心に明かりを灯す文書、医療系学術論文など)
◆医療通訳になろうと決めたきっかけは、何ですか。
汝の愛するものを仕事に選べ、そうすれば生涯一日たりとも働かなくてすむであろう。(孔子)
もともと英語やさまざまな文化に憧憬して、その流れの中で翻訳修士号を取得しました。育児書や医学系学術論文などの翻訳をさせていただく延長線上に医療通訳があり、飛びついたという感じです。
もちろん今も翻訳の仕事もしておりますが、今まで私の経験したことや学んだことが少しでも皆さんのお役に立ち、好きなことを職業にできて幸せだと思います。
通訳の私を信頼してくださる患者さん、そのご家族の皆さんや関係者の方々に心より感謝しております。
◆医療通訳をする中で、やりがいを感じる時は、どのような時ですか。
一にも二にも「良い医療で早く良くなられますように」と念じながら医療スタッフと患者さんのコミュニケーションの橋渡しの黒子として働かせていただいております。
この想いは医療スタッフの方々と同じだと思います。
丁寧に患者さんの容体を通訳していく中で、患者さんが少しずつ医療スタッフや通訳に信頼を置くようになり、快方に向かって喜ばれている姿を見るたびに、いつも大きなやりがいを感じています。
◆クライアントさんは困っている時に通訳が必要になります。中には慌てていたり、混乱したりしているクライアントさんもいるかと思います。
このようなクライアントさんにはどのようなことに心がけて、通訳をしますか。
己の心を虚しくし、形なき状態になるのだ。決まった形などない――そう水のように。(ブルース・リー)
通訳をする時は一人称で「私」、または「I」で話すので、私は、クライアントの方になりきって、お困りの様子や混乱されている様子を、できるかぎり忠実に再現するようにします。そして、その後は医師、臨床心理士、精神科医などに対処を委ねます。
ただし、もし伝わらなかった時はやむを得ず、解説を加えることもあります。
◆医学用語は日本語でも難しいものもあり、一般には理解しにくい用語もあると思います。クライアントさんが理解しやすくなるように、どんな工夫をしていますか。
私自身も含めて人口の65%が、図やイラストを見て学習する「ビジュアル学習者」だと言われています。
医学用語は英語でも日本語でも聞きなれないものです。そこでいつも私が持ち歩いているのが、体のしくみや手術方法が描かれた図解や人体の各部位の解体図などです。
医師がおっしゃったことでピッタリの図解があれば、その場で患者さんにお見せします。
また、医師から「手を上に挙げてください」と指示があった場合、通訳の私も「バンザーイ」というように自分自身の手を挙げて通訳するようにしております。
難解な言葉と思われるものは、患者さんに確認をとった上で、医師に簡単な言葉を使って説明してもらうこともあります。
通訳の時に、山本さんが使用している人体図と図解
◆日本の文化には、「遠慮」「我慢」などがあります。医師に病状を伝えたりする時に、クライアントさんが遠慮や我慢をしていたら、コミュニケーションがなかなか取れないと思います。
より早く、正確なコミュニケーションをとるために、日本人のクライアントさんが心がけたらいいなと思うことがあれば教えてください。
みんなちがって、みんないい。 (金子みすゞ)
そのような方はおそらく「迷惑をかけて申し訳ない」と心配りのできる優しい方なのだと思います。そのような素晴らしい優しさをそのまま大切になさり、次のような観点で捉え直してみてはいかがでしょうか。
医療スタッフは一丸となって「患者さんに早く良くなっていただきたい」という気持ちで、限られた時間の中で、何の病気、または怪我なのかを見極めなければなりません。そこで患者さんについて、次のようなことを、ぜひとも知りたいと思っています。
①どのような症状なのか?
(例:頭痛、高熱、嘔吐、下痢、血便など)
②どんな痛みなのか?
(例:しびれるような痛み、鈍い痛みなど)
*本紙5ページに、毎回掲載している『痛みの種類』を参照。
『痛いの種類』は、山本さんからご提供いただいています。
③痛みの程度はどれくらいなのか?
(例:0〜10)
*「痛みのレベル」は様々な図がありますので、これは一例です。
これらの情報は、医療スタッフにとって大きな助けになります。そして同時に、患者さんご自身が治ることにつながります。
このようにお考えになって、医療スタッフに、遠慮なさらずに、我慢なさらずに、ご自身の状態をお伝えになってみてはいかがでしょうか。
◆病院に行った時に、日本語の通訳を頼みたい場合、費用はどれほどかかりますか。
ぜひ、皆さんにお伝えしたいのは「公民権法第6編(Title VI of the Civil Rights Act)」に基づき、患者さんは病院において「無料」で通訳を受ける権利がある、ということです。
どうぞ病院のスタッフにお気軽に、直接に
「Japanese please(ジャパニーズ、プリーズ)」
「Japanese Interpreter, please(ジャパニーズ インタープリター、プリーズ」
「Japanese Translator, please(ジャパニーズ トランスレーター、プリーズ)」
などと、通訳を依頼してみてください。
出張通訳、電話での通訳、または、ビデオを通しての通訳など、いずれかの方法で、病院が無料で通訳を手配してくれるはずです。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。