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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
vol.14 ザッピング

2021-07-30

 90年代の初めに『殺意』という実験的なサスペンスドラマが日本で放送されました。ヨーロッパのテレビ局が制作したドラマの日本語吹き替え版です。実験的なのは、TBSとフジテレビの2局で同時に放送されたこと。もともと1つの話を登場人物の男性と女性それぞれの視点から見たドラマ2本で構成されていて、それを2つの放送局で同時に放送し、視聴者が2チャンネル間を何度もザッピングして楽しむものでした。

 片方のチャンネルでは主人公の部屋に忍び込もうとする怪しい人影を追うシーンだけが流れ、他方のチャンネルでは全く同じ時間に部屋で何も知らずに過ごす主人公の姿が流れる、という具合。2つのチャンネルを行き来する視聴者の頭の中で初めてサスペンスが成立するドラマでした。

 東京オリンピックが開催されたとき、私はこのドラマを思い出しました。試合を中継するチャンネルではアスリートたちが熱い戦いのドラマを繰り広げ、キャスターやゲストコメンテーターがその健闘を讃える。オリンピック中止論や開会式準備スタッフによる度重なる不祥事の発覚騒動など存在しなかったかのように。別のチャンネルでは新型コロナウイルス感染者数の爆発的増加の現状、医療の逼迫、識者による政府の批判が繰り返し放送される。崇高なるオリンピズムを讃える祭典など存在しないかのように。

 ザッピングドラマのように、チャンネルが変わることで全く別の現実が浮かび上がる現象。崇高なるオリンピズムを讃える美しき世界が本当の現実なのか、世界規模で猛威を振るう感染症に社会経済が混乱され続け、人々のストレスがピークに達する世界が本当の現実なのか、判断がつかない状態。おそらくどちらも現実なのでしょう。より正確には「どちらが『本当の』現実か決められず、同時にどちらも現実であり、それでいて2つを1つの現実にまとめることは出来ない」という違和感こそが今の私たちの現実ではないでしょうか。

 政治的保守とリベラルの分断、科学的知見と陰謀論の分断、人種間の分断等々。世界はいたるところで分断されています。分断を乗り越えるには異なる視点間をザッピングして「違和感」を共有することから始めるべきかもしれません。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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