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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
vol.17 せめぎ合い

2021-11-05

 哲学論文誌Critical Inquiryの「Comics & Media」特集号(2014)に面白い記事が載っていました。アメリカの漫画家Lynda Barryが行ったワークショップを紹介したもの。

 Lyndaは参加者に「何も見ないで紙に自動車とバットマンを描いてください」と言います。参加者はそれぞれ悪戦苦闘しながら自動車とバットマンを描き、おかしな形の自動車やバットマンには似ても似つかないモノを前に笑い、驚き、羞恥し、会場は一気に熱気に包まれます。なぜこれほどの興奮が生まれるのでしょうか?参加者たちが「自分が制御できない線を描いているから」とLyndaは説明します。タイヤの位置は?バットマンの顔ってどんな感じだった?コスチュームは?おぼろげな記憶を再現しようとするが形にならず、紙の上には全く意図しなかった線が残される。Lyndaはこれをお化け屋敷のアトラクションに例えます。次に何が出てくるか分からない不安と恐怖の中を一歩ずつ進み、出てきたものに衝撃を受ける。描かれた線は理性の制御をすり抜け、活気と面白さに満ちる。アーティストが表現しようとするものはこれである、とLyndaは言います。

 絵に限らず、創造性とは異なる力のぶつかり合いから生じるのかもしれません。記憶を完璧に再現しようとする力とそれを阻む忘却の力。社会生活の次元では、Aを実現しようと(例えば日本で選択的夫婦別姓を実現しようと)する力とnot Aを実現しようとする力。それらの衝突から火の粉が飛び散るように、新たなものが生まれてくるのではないでしょうか。そこで必要とされるのは、ぐうの音も出ないほど相手を追い詰める「論破」でもなく、コミュニケーションがゼロの「分断」でもない、予想不可能なものを生むせめぎ合いです。現代社会にそんなせめぎ合いを促す場は残されているのでしょうか。

 最近、日本のバラエティ番組では絵心のないタレントにお題を与えて絵を描かせ、その「作品」を面白がって作者を「画伯」と呼ぶのが流行っているようです。上のワークショップのような興奮は確かに生まれるものの、「画伯」という皮肉が結局は「上手いか下手か」の二項対立を導入して「予測不可能で創造的なもの」を隠蔽しているようで、私はお化け屋敷とは別の種類の不安を覚えました。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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