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コラム

ピアノの道
Vol.72 音に込める心

2022-01-07

 日刊サンの読者には言語に苦労をしている方、または過去に苦労をした経験をお持ちの方が多いのではないでしょうか。かくいう私も13歳、中二の一学期に渡米してハイスクールに編入。英語が読めぬ・喋れぬ・聞き取れぬの三重苦で泣きました。演奏旅行でもギリシャ語・ハンガリー語・マケドニア語などなど、様々な言語圏で言葉の壁に直面します。一言も知らない現地語をゆっくりと身振り交えて喋る相手と、目を見開いて頷きながら意思疎通を試みる。そうして何とか通じあった時、凄い連帯感でお互い笑みになり、忘れがたい旅の思い出になったりします。

 「知らない現地語をゆっくりと身振り交えて...」というのは実は成功率は高いようです。それには言語には根本的な世界共通性があるからなんですね。例えばイラストをちょっとご覧になって二つある図形のどちらが「ブーバ」でどちらが「キキ」か言ってみて下さい。

 ギザギザが「キキ」で柔らかい形が「ブーバ」と、文化・言語に関係無くしゃべり始める前の赤ちゃんまで含めて95%の以上の人が同意するそうです。カリフォルニア工科大学の下条信輔教授のご著書「サブリミナル・インパクト:情動と潜在認知の現在」(2008)によるとこういう言語とか音に関する世界共通性は他にも多数例があるそうです。例えば「大きい(large)」は口を開き「小さい(small)」という時は口をすぼめる。こういう現象を基に、下条教授は「言語はもともと動物の叫び声やほえ声のような情動的な信号だったはず―そこから枝分かれしたのが音楽ではないか(P. 68)」とおっしゃっています。

 だから、私たちが日ごろ何気なく発音する言葉も、ピアノで弾く和音と同じくらい心を込められるはずだと私は思います。言葉の壁もなんのその!「おはよう」や「Thank you」にまごころを込めて、笑みを交わしてみませんか?

この記事の英訳はこちらでお読みいただけます。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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平田真希子 D.M.A. (Doctor of Musical Arts)

日本生まれ。香港育ち。ピアノで遊び始めたのは2歳半。日本語と広東語と英語のちゃんぽんでしゃべり始めた娘を「音楽は世界の共通語」と母が励まし、3歳でレッスン開始。13歳で渡米しジュリアード音楽院プレカレッジに入学。18歳で国際的な演奏活動を展開。世界の架け橋としての音楽人生が目標。2017年以降米日財団のリーダーシッププログラムのフェロー。脳神経科学者との共同研究で音楽の治癒効果をデータ化。音楽による気候運動を提唱。Stanford大学の国際・異文化教育(SPICE)講師。

詳しくはHPにて:Musicalmakiko.com




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