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コラム

受喜与幸 ~受ける喜び、与える幸せ~
vol.16 他者を思うと力が出る1

2022-02-11

 自分を中心にものを考えず、他人や周囲に目を向ける。そういう外へ向かう気持ちをもったとき、私たちの生命のはたらきがより活発になることは、科学的にもわかっています。

 たとえば、海で溺(おぼ)れたとき、同じように溺れている人が近くにいるほうが助かる可能性が高いといわれています。たとえ自分が溺れていても、溺れている人を見ると、何とか助けようとして力が出せるというのです。そのことが双方の命を助ける。人は、他者を思いやることで力が発揮される生き物なのです。

 私にもこのことを実感する体験がありました。ある年の夏、家族とハワイで休暇を楽しみました。もっとも私は直前まで仕事がひどく忙しかったせいもあって、とても疲れており、「楽しむ」という気持ちにはなかなかなれないでいました。

 それでもハワイへ着いた翌日、家族で海水浴に出かけたのです。大きな子どもたちはさっそく、沖に浮かぶ小さな島をめがけて泳いでいきます。その日は波がやや荒かったので、妻と小さな子どもは浜に残るように言って、私もひとり、大きな子どもたちを追って沖へ泳ぎ出しました。

 その途中、体にするどい痛みを感じました。クラゲに刺されたのです。

 私は若いころからハワイの海で泳いでいましたから、クラゲには何度も刺された経験があり、いずれも患部が少し赤くなるくらいですんでいました。

 ところが、そのときはなぜか、ぜんそくの発作が起きたみたいに急に呼吸が苦しくなり、体がひどく重くなって、泳げなくなってしまったのです。遠浅の海で何とか背は立ちますが、爪先(つまさき)立ちしてやっと顔が海面に出るくらい。そのまま立ち往生して、行くも戻るもできなくなってしまいました。

 ちょっと気を緩めると、口や鼻に水が入ってきます。それを避けようと、懸命に背伸びを続けるうちに、だんだん体力が奪われて「このままでは溺れてしまう」と私は気が遠くなる思いでした。

不思議なことに、絶望感や何とか助かりたいという気持ちはほとんどありませんでした。おそらく、仕事で疲れきって体力や気力が衰えていたせいなのでしょう。

「このまま意識が遠のいてしまえば楽になれるな」とあきらめのような気持ちにとらわれてしまいました。
 
次回に続きます。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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新原豊

新原 豊(にいはら・ゆたか)
1959年東京生まれ。ロマリンダ大学宗教学部卒、同大医学大学院卒。1989年よりUCLAハーバー総合病院にて血液内科と腫瘍内科に所属。ハーバード大学で公衆衛生学修士課程を修了。2005年よりUCLA医学部教授に就任。Emmaus Life Sciences, Inc. 会長兼CEO、EJホールディングス㈱ 取締役会長。Emmaus Life Sciences, Inc. の株式シンボルは、”EMMA” です。




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