旅は呼んでいる。
vol.64 フランス ~ルーヴル美術館~
2022-03-25
死のうとしたが成り行きで吸血鬼となり、二百年生きてきた青年ルイが自らの半生をライターに語る―映画“インタビューウィズヴァンパイア”の原作が愛読書のひとつだ。彼がルーヴル美術館を訪れる描写があり、いつかは自分も、と憧れていた。
初見、桁外れの広さと方向音痴も相まって途方に暮れた。床面積はヴェルサイユ宮殿より大きく外観も負けず劣らず麗しい、と思っていたらそもそも城だったそう。十九世紀にはナポレオン三世(ナポレオンの甥)が住んでおり、居室は眩いシャンデリア、金で装飾された壁に赤いビロードの椅子と贅沢三昧。彼は現在のパリの美しい景観の土台を作った功績があるのだそう。
起源が判らず、突如現れ楔形文字や六十進法を発明、巨大神殿ジッグラトを建造し、出土した彼らの像は目が異様な大きさ…と謎だらけのシュメール文明に興味があり、その系譜を受け継ぐ新アッシリア帝国の王、サルゴン二世の宮殿を再現したエリアのある“古代オリエント美術部門”に最も魅かれた。長い髭面に五本足の牛の体と翼を持つ守護霊の石像は神秘的で、威厳に満ちていて圧倒された。他にも四枚の翼、右手に松ぼっくり、左手にハンドバッグを持った精霊のレリーフ等が並ぶ。なおこのバッグ、奇妙なことに遠く離れたメキシコのオルメカ文明でも同様のデザインが見られるのだとか。
彫刻が好きで、ギリシャ神話を基にした“アモルの接吻で蘇るプシュケ”(アントニオ・カノーヴァ作)や、ローマで感動した“聖テレジアの法悦”と同じベルニーニ作“眠れるヘルマプロディートス”も素晴らしかったが、“フィリップ・ポーの墓”という異質な作品に巡り合った。黒い喪服を纏った八人の男が俯いている様が何とも不気味で、故人を運んでいるのだがどうにも死神に見えて不思議と惹きこまれた。
あらためて美術館の資料を見るとホラー映画“エクソシスト”に登場した悪魔パズズの青銅像があると判明、二度訪れているがまだまだ見逃している美術品があると思い知った。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。