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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
vol.23. 身体

2022-04-28

 今年のアカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した濱口竜介監督の映画『ドライブ・マイ・カー』は妻を失った主人公の舞台演出家の物語でした。彼の演出方法はユニークで、出演者たちが台本を読み合う「本読み」でそれぞれの台詞に一切感情を込めずに読むよう指示します。これは濱口監督が自身の映画に採用しているものですが、奇妙に思った方もいるのではないでしょうか。

 監督の著書『カメラの前で演じること』に、これはもともとジャン・ルノアール監督の「イタリア式本読み」という手法であると書かれています。抑揚を完全に排して台詞を繰り返し音読させ、意識せずともことばが自然に口をついて出てくるまで身体に落とし込ませ、役者に台詞の意味を頭で考えて準備する時間を与えない。すると紋切り型の嘘っぽい表現が入り込まず、役者たちの身体がカメラの前で化学反応を起こして「リアルな」パフォーマンスが引き出せる。

 私たちの身体は意識によってすべて制御されているわけではないことを再確認させてくれる事例です。もちろん意識という司令塔が体を自由に制御する場面は多くあります。でも私たちはパソコンで文章を書くとき、「次は『か』だから右手の中指キーの後に左手の小指キーを押そう」と意識するでしょうか。自転車に乗っていて「ちょっと右に傾いたからハンドルを少し右に切れ」と意識は「司令」を送っているでしょうか。同僚、友人、家族、対面する相手との関係によっていわば身体のチャンネルが無意識に切り替わり、眼球、声帯、顔の筋肉などの動きが変化して眼差しや声のトーン、表情を変えていないでしょうか。

 身体は意識とつながる一方、物理的環境(PCのキーボードなど)と一体化し、知識(自転車の運転など)を独自に習得し、人間関係(相手のアクションへのリアクション)を体現する存在でもあります。つまり、私たちの身体が社会そのものであるということ。今や陳腐な表現となった「社会を変える」は「身体を変える」と読み換えるべきでしょう。身体を変える。例えばリスクを承知で正義に「身」を投じる。その時の視線、表情、声のトーンは周りの身体の新たな反応を生み出していくに違いありません。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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