ピアノの道
vol.85 受け取るバトン
2022-07-15
3年ぶりに飛び降りた成田で阿部晋三元首相 (67)の銃殺を知り、びっくりしました。
私が憧れて育った犬養道子さん(1921‐2017)は戦争難民や飢饉被害者の為に生涯を捧げた国際的な人道主義者かつ多作な著者であると共に、1932年の5.15事件で暗殺された犬養毅の孫娘。その自叙伝的な「花々と星々と」や「ある歴史の娘」に、当時は内閣総理大臣に就任する際遺書をしたため、命を捧げる覚悟で任命を受けたという記述と共に、祖父を殺された孫娘の悲嘆が記されていた事を、安倍首相暗殺のニュースを受けて思い出しました。
帰国したら必ずお電話を差し上げる人に、私の小3の時に学級担当だった恩師がいました。香港で幼少時代を過ごした帰国子女で、少しクラスから浮き気味だった私を、褒めておだてて励ましてくださいました。卒業しても演奏会には必ずいらして下さり、私の前進をいつも手放しで喜んでくださった佐藤先生。「お嬢様放浪記」の犬養道子の様に私も世界中を旅して色々冒険してみたい!とまだ10代の私が言った時、大笑いして「そういうの読んだら(すごいな~)と感心するのが普通だと思うけれど、あなたは(同じようになりたい!)と思うのね」と褒めてくださいました。私の大好きだった佐藤先生は2年前に82歳でお亡くなりになったと、差し上げたお電話でご主人様から伺いました。
死は、生まれ落ちた瞬間から約束される絶対不可避の現実です。だから私たちは志は高く、愛情は深く、一杯笑って泣いて、心置きなく生を全うできるのではないでしょうか。そして残された者は、先に逝く者の思いを引き継ぐ事で、哀悼と愛情表現をするのだと思います。人生はバトンリレー。今回の帰国で私は多くのバトンを受け取っている気持ちです。そしてバトンを受け取って、私の走っていくべき道がどんどん明確になっていく気がしています。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

