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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
vol.31. 飛躍

2023-01-06

 思想家・内田樹氏はかつて「論理は跳躍する」と語りました。論理的な思考というものは最初から決まった考え方を辿るようなつまらないものではなく、つねに跳躍を含む行為である、と。例えばシャーロック・ホームズが限られた手がかりから犯人とその犯行手口を推理するように、断片的に与えられた事実をつぶさに観察し、その関連性を考察し、断片の全てを同時に説明できる仮説を構築する。その仮説が非常識であったり、多くの人に受け入れがたいものであっても、「こうであるはずだ」と結論づける。最終的な結論に勇気をもって跳躍する。そのスリリングでダイナミックな思考こそ「論理的」である、と。

 多くの場合、「論理の飛躍」は批判されます。確かに断片的事実をよく観察したり、十分に思考をめぐらす前に結論に飛びつくことは受け入れられません。でも、知の巨人と呼ばれる人たちが成し遂げたことを振り返ると、その論理的思考には常に飛躍があったことが分かります。近代哲学の父・デカルトは真実を求めるために「その存在が疑えるものを全て疑う」という思考実験をしました。我々は夢の中の出来事を「現実」と捉える可能性がある。だから、いま目の前にあるこの「現実」も本当の現実ではないかもしれない。自分の肉体も幻かもしれない。神も存在しないかもしれない。「1+1=2」という数学的真理も嘘かもしれない。そうして全てが幻だと思った瞬間、「疑っている自分」は疑えないという認識に至ります。ゆえに、私は存在する。これが「我思う、ゆえに我あり」です。この大胆な結論への「飛躍」が近代的合理主義の出発点となりました。

 いま私たちに必要なのは、「論理的なこと」と「論理的でないこと」という二項対立で前者を機械的で堅苦しく、人間の代わりにコンピューターで「演算」すべきようなこと、後者をアートや文学が担うべき「知的に突き詰めないこと」とする偏見を捨てること、そして論理的な思考そのものが「飛躍」を必要とする事実を思い出すことでしょう。論理こそ、知的興奮に満ち、勇気あるダイナミックな飛躍でまだ見ぬ地平に到達する冒険なのです。2023年が皆さんにとって大いなる「飛躍」の年となりますように。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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