ピアノの道
vol.103 正直に練習
2023-04-14
ピアノを弾くのと練習するのは違います。
練習というのは、何がどうして出来ないのかを解明し、解決するプロセスです。だから最初から最後まで曲を弾き通すのは、本当の練習ではないんです。「難しい」「出来ていない」と自分の中で正直に認めて向き合うのは、中々出来ないものです。ちょっと気を緩めると、すでに弾けている所を弾けるようにパラパラ弾いています。ミスタッチをしてもただ何度も同じ個所を考えもなく繰り返し、一回まぐれで正しく弾けたらそれで良しとして弾き進んでしまう。
…これって日常生活・現実社会でもありますよね。「こうすれば良くなる」と分かっていても、慣れた方法で出来るようにやってしまう。気が付くと同じミスを何度も繰り返している…そして、改善・改革というのは、現状維持や同調圧力や結果発表の圧力が強い社会では中々難しい、というのが現実です。
同じように、演奏会の数をこなす事が必要なピアニストにも、本当の意味での「練習」できる時間や機会というのは、多くはありません。一つの本番から次の本番へと、譜読みと演奏をこなす事に追われて、技術や音楽性の向上の為の時間も精神も乏しくなる事が多いのです。でも、最近思うのです。芸術家や運動選手の使命というのは、日常生活や現実社会を超越した人間の可能性を体現する事ではないのか。効率とか利益とか社会的要求を超えた、こだわりと愛着のインパクトをやってみせる事ではないか。銃導入後の武士の剣術と同じように、我々の本領は本番よりもその修練にあるのではないか。
企画の段階から協力させて頂いている「テンポ:音楽による環境運動」が先日LAタイムズに取り上げられました。社会構造から生活様式まで、正直な見直しと改善・改革を我々一人一人に余儀なくさせる環境問題。音楽家としてできる貢献に邁進していく所存です。どうぞ見守ってください。
この記事の英訳はこちらでご覧いただけます。
テンポについてのLAタイムズの記事とポッドキャストはこちらでご参照ください。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

