ピアノの道
vol.104 最初の日本人音楽留学生とその家族
2023-04-28
5月はAsian American Pacific Islander Heritage Month。アジアや太平洋諸島系アメリカ人の文化と歴史を再考する月間です。その一環として私がリトル東京図書館支部でプレゼンをさせて頂きますテーマがこちら。
私が渡米しジュリアードでの勉強を始めた丁度100年前の1889年に、日本初の文部省音楽留学生が横浜を出港しました。幸田延(1870~1946)です。ボストンとウィーンの音楽院でヴァイオリン、ピアノ、作曲などを勉強した延は1895年に帰国。日清戦争勝利に沸き立つ日本は文明開化の象徴的ヒロインとして延の帰還を大歓迎しました。帰国後の延は東京音楽学校で教鞭をとり、作曲家の滝廉太郎や山田耕筰、声楽科の三浦環などを育成します。
そんな延が帰国後二年目に書いたヴァイオリンソナタ2番(1897)を、先週演奏しました。留学中に書かれた堅実な古典様式の1番に比べ、哀愁に満ちたメロディーがより抒情的な2番に延の心情や時代背景への想いが膨らみました。
留学中には読売新聞の「読者投票による16名媛」に選ばれていた延は、1906年に日本女性第二位の高級月謝取となったころから手の平を返したような世論のバッシングを受け、音楽学校への辞表提出に追い込まれます。男尊女卑の当時生涯独身だった延が、それでも歴史の闇に消え去らなかったのは本当に良かった。延の兄露伴(1867∼1947)が夏目漱石や森鴎外と並ぶ文豪だったこと、さらにその娘で延の姪にあたる文(あや:1904~1990)、文の娘の青木玉(1929~)、その娘の奈緒(1963~)とそれぞれが個性豊かな授賞作家となり、一人一人が作品の多くで幸田家や延に関して綴っている事が幸いでした。
来る5月6日(土)ダウンタウンにあるリトル東京図書支部で、幸田家の作品で日本の西洋化を考察する音楽と文学のイベントを行います。会場でお目にかかれれば嬉しいです。
日時:5月6日(土) 14時~15時半まで
会場:リトル東京図書支部 203 South Los Angeles St, Los Angeles, CA 90012
イベント名:The First Japanese Composer of Western Music, Nobu Koda (1870-1946)
入場無料
お問い合わせ、ご予約はltokyo@lapl.org、または(213)612-0525まで。
詳しくは:https://www.lapl.org/whats-on/events/first-japanese-composer-western-music-nobu-koda-1870-1946
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※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

