ピアノの道
vol.110 日本の思い出
2023-08-11
日本のクラシックファンにはいつもびっくりさせられます。帰国中の演奏会は交通の便の悪い田舎での会場ばかりだったので広報もせず、地域のお客様のために企画しました。それなのに電車を乗り継いて片道何時間もかけて聴きに来てくださった長年の常連さんや、車を何時間もドライブして聴きに来てくれた親戚が居たのには感激しました。小3の時の同級生のいっちゃんも来てくれました。音楽会というのは、お祭りなんだなあ、と思います。企画・運営・広報・裏方…会場では目立たない無数の人が力を合わせて創り上げるお祭りには、遠路からも人を引き寄せる心がこもります。
「ぎゃお~~ん!」演奏会中のハプニング。3曲目の直前。「みえな~い!まえいきた~~い!!」会場の後ろに設置された親子室から泣きながら力いっぱいおじいちゃんの手を引っ張って会場前部に向かう5歳児。お客さんに何度も頭を下げながら必死に孫をなだめるおじいちゃん。(どうしよう…)一瞬迷った後、右手で(おいでおいで)をしてみました。「前に座っていいんだよ。」泣きじゃくる女の子が泣き止みます。「うんうん」と満足気に頭を前に振りながら私とハイタッチした後、最前列に座り込んだ女の子はその後ずっとニコニコと一生懸命聞いてくれました。「あれで会場があったまったよ。」数人のお客様に言われました。忘れられない音楽会になりました。
日本列島の西側に台風6号が東側に7号が接近し、米東海岸では竜巻警告11州に発令し何千もの飛行機が遅延やキャンセルになる今夜、日本での過密な行程を無事に終え、LAに飛びます。異常気象現象が増えている中、日本や家族や旧友を満喫できた3週間が有難く感じられます。来年、5年後、10年後、空の旅はどうなっているのか…私より背が低くなった母に手を振りながら、お腹いっぱい食べたオフクロの味がもう懐かしく思えます。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。