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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
vol.41 壁(1)

2023-11-03

 オウム真理教を扱った『A2』というドキュメンタリー映画があります。1995年の地下鉄サリン事件など教団による一連の凶悪事件を受け、日本全国でオウム排斥運動の嵐が吹き荒れる中、各地域の教団施設に分散して身をひそめるように暮らす信者たちの姿を追った2001年制作の作品。各種メディアによる連日の報道合戦で教団は恐ろしいカルト集団であると日本中が認識し、その信者たちも「悪魔」と見なされる中、事件に関わっていない信者たちの生活の一部始終をカメラが捉えます。

 彼らの日常を追い、その考えを聞いていると、メディアによる「悪魔」のイメージとは裏腹にどこにでもいる純朴な青年の顔が浮かび上がります。バブル崩壊後のすさんだ社会に嫌気がさして教団に入り、尊師を「純粋に」信じて修行に身を投じていたら次々に信じられない事件が起き、いつのまにか日本中から悪魔と見なされている。その事実に戸惑いながら修行を続ける日々。いたって「普通」の人に見える彼らとは対照的に、教団施設を取り囲む地域住民や報道関係者たちの横暴ぶりをカメラは捉えます。こいつらは悪魔なんだから人権などない、サリン事件の再発を防ぐためには何をしてでも施設の内部に入り込んでやる、とでも言わんばかりに、施設に入る信者の持ち物検査をし、粗暴な言葉を浴びせる人々。

 施設の中と外との間に緊張感が高まる中、非常に印象的なことが起きます。教団の監視のために自治体が施設の外に公式に設置した建物のそばに、地域住民がボランティアでテントを設置して監視を続けていたのですが、その住民たちが信者たちと交流を持ち始めます。最初は信者を悪魔扱いしていた住民たちでしたが、交代で毎日彼らに声をかけているうちにその場所がオウム監視を媒介にした地域の交流の場となり、いたって「普通」の信者とも打ち解け、彼らに本を貸したり談笑したり、信者との交流が彼らの生活の一部となっていきます。もはや信者を「新たなテロ事件を起こすかもしれない危険人物」と見る人は誰もいない様子。信者たちも監視テントまで出てきて和かに会話します。

 そこに問題が起きます。ボランティアの住民たちがテントを撤去することになりました。(続く)


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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