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コラム

ピアノの道
vol.117 ピアノは一人芝居

2023-11-17

 ピアノを「ワンマンオーケストラ」と言ったのは一世を風靡したヴィルチュオーソのリストでした。指一本で誰でも音が出せる単純な楽器だからこそ、可能性も大きい。一本指を二つの鍵盤にかけて二音同時に弾いたり、肘から指先までを鍵盤に乗せて「ジャーン」と鳴らす特殊技法を使えば10以上の音も出せます。低音から高音まで行ったり来たり指を駆け巡らせる「音の波」や、鍵盤の上にざざーっと指を滑らせる「音のなだれ(グリッサンド)」だって演出できます。こういうのは演技に例えると、大声量とか早口言葉とか格闘シーンの様に喝采を浴びやすい派手な技巧です。

 でも実はピアニストの一番の腕試しは沢山のメロディーを弾き分けること。これは演技に例えると一人で何役も演じ分けることに似ています。男性と女性の会話を左手の低音部と右手の高音部でやり取りするのはまだ簡単。一番難しいのは二つ以上のメロディーを同時に弾き分けることです。バッハの複雑な曲では6つの声部がそれぞれ違う音域と速度で独立したメロディーを同時に歌うこともあります。

 私は全てのメロディーに感情移入し、平等に生かすことが得意だと自負して来ました。聞こえにくい声部の音量を大きめに、逆に目立ちやすいメロディーは控えめに弾きます。メロディーを一つずつ分けて表現を振付のように指に教え込み、同時に弾いても自動的にそれぞれの声部が独立して歌えるまで練習を重ねてきました。しかしそれでは全体像や曲の方向性がボケると気づけたのは、意外にも本執筆のお陰です。舞台恐怖症を克服する過程を綴った手記を読んだ編集者が「登場人物全員の背景や立場や感情を、良し悪しの判断無しに公平に描いた努力は認めるが、その為に筋と論点がボケている」と指摘してくれたのです。ハッとしました。

 演劇では舞台照明で観客の注目を誘導しますよね。「見たいもの観ろ」と全てを照らし出しても聴衆は目が眩むだけ。同じく沢山の声部(登場人物)がみんな声の限り自己主張しても受け取る側は気が散ります。表現者として私の責任はそれぞれの声部(人物)に対してではなく、音楽(物語)、そして聴き手(読み手)に対して。一皮むけた思いです。

この記事の英訳はこちらでお読みいただけます。


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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平田真希子 D.M.A. (Doctor of Musical Arts)

日本生まれ。香港育ち。ピアノで遊び始めたのは2歳半。日本語と広東語と英語のちゃんぽんでしゃべり始めた娘を「音楽は世界の共通語」と母が励まし、3歳でレッスン開始。13歳で渡米しジュリアード音楽院プレカレッジに入学。18歳で国際的な演奏活動を展開。世界の架け橋としての音楽人生が目標。2017年以降米日財団のリーダーシッププログラムのフェロー。脳神経科学者との共同研究で音楽の治癒効果をデータ化。音楽による気候運動を提唱。Stanford大学の国際・異文化教育(SPICE)講師。

詳しくはHPにて:Musicalmakiko.com




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