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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
vol.42 壁(2)

2023-12-01

 オウムの施設をボランティアで監視しつつも信者たちと交流を深めてきた住民たちがある日、テントを撤去することになります。理由を聞いても明確に答えてはくれませんが、言葉の端々から分かってくるのは次のこと。オウム施設の隣には自治体が公式にプレハブ小屋を設置して「悪魔の監視」を行っているため、地元住民に悪魔と仲良くされては自分たちの存在意義がなくなる、と。

 複数の殺人事件を起こしてきた悪魔集団に対する自治体の抑止力、という構図を成立させようとする意志とは裏腹に、施設の敷地を囲む壁にもたれかかり、笑顔で信者と談笑する住民。青年信者も笑顔で会話し、壁の外に出てきて自分の修行をパフォーマンスとして披露することすらあります。それを感心して笑顔で見守る住民。もはや日本中のどこにでも見られる地域交流の場の光景です。テントの撤去日には、住民たちから「君らも手伝え」と言われるままに撤去作業を手伝い、「いったい僕は何をしているんでしょうね」と苦笑いを見せる信者。壁をあちら側とこちら側で睨み合う「悪魔」対「政治権力」と、微笑み合う「気のいい青年」対「人懐っこい地域住民」という、2組が共存しています。

 いったい何が起きていたのでしょうか?カルトの信者でも人となりは善良であって、信者としての仮面の裏には好青年な「本当の姿」があり、それを地域住民が引き出したのか。だとすると、彼らにとってオウムとはあくまで「本当の姿」を覆う仮面であり、付属物であり、何かの間違いで付着してしまった異物であり、取り除いたところで「本当の姿」は変わらないのでしょうか。逆に、地域住民と仲良くする姿こそが仮面であり、演技であり、彼らは内心で目の前の地域住民ですら「ポア」しても構わない、とチャンスをうかがいながら笑顔を見せていたのでしょうか。

 そのどちらも誤りでしょう。つまり、信者として尊師の言うとおりにアルマゲドンを信じ、サリン事件も必要悪と受け止め、解脱を目指して修行に励むのも彼らの「本当の姿」であり、地域住民と打ち解け、笑顔でやりとりをするのも「本当の姿」なのです。重要なのは、なぜそんなことが起きたのか、ということでしょう。
(続く)


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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