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コラム

マイ・ワード・マイ・ヴォイス
vol.50 亀裂(6)

2024-08-02

 根源的な亀裂によって分断された「意識の言葉」と「物理世界の言葉」。どちらか一方を他方に還元することも、どちらか一方を正しい言葉とすることもできません。この状態こそ、私たちの存在ではないでしょうか。人間の本質は意識のみにも、身体のみにも還元することは不可能であり、その両方に求めるしかありません。

 「そんなの当たり前だろう。だから両方のバランスを取ればいいだけだ」と思われるでしょうか。問題はそんなに単純ではありません。注意すべきは、意識と身体はお互いに相容れないものである、ということ。色も形もない「意識」を、目の前にあるコップと同じように物理世界の中に位置づけることはできません。意識はどこにも存在しない。あるのはXX神経の反応だけ。同様に、意識の中にあるコップを物理的に存在するコップであると捉えることも不可能。一度「物理世界は存在する」と受け入れてしまうと、その世界はどこまでいっても物理世界で、意識の世界につながる通路はどこにもありません。逆もまた然り。例えば、目の前のコップが意識の中の「容器」という概念とつながるとするなら、どういう意味で「つながる」のでしょうか?物理的につながる?コップとスプーンを接着剤でつなげるように、コップと「容器」をつなぐ?どうやって?物理世界と意識の両方を同時に認めること、両者を同時に持つことは矛盾します。私たちはその矛盾を抱えた存在なのです。

 ヨガのインストラクターなどが言う「心と身体のバランスを取りましょう」といった言葉も、この解消不可能な矛盾を無視したものです。心と身体を割れたスイカの両側のようなものと想定して、両者の間に空間的な亀裂があると捉えているから。そもそも心と身体は、意識と物理世界の違いが示すように、種類の違う2つのモノではありません。亀裂は2つのモノの間に空いた隙間ではありません。では何か?意識であろうと物理世界であろうと、一つの世界観で世界を捉えようとする試みがすでに矛盾を孕んでいて、「世界観」を持つこと自体が失敗することを示す「世界観」の不可能性、「世界観」自体に組み込まれた時限爆弾によってやがて現れるヒビが亀裂なのです。(続く)


※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。
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葛生賢治

哲学者。早稲田大学卒業後、サラリーマン生活を経て渡米。ニュースクール(The New School for Social Research)にて哲学博士号を取得した後、ニューヨーク市立大学(CUNY)をはじめ、ニューヨーク州・ニュージャージー州の複数の大学で哲学科非常勤講師を兼任。専門はアメリカンプラグマティズム、ジョン・デューイの哲学。現在は東京にて論文執筆、ウェブ連載、翻訳に従事。ウェブでは広く文化事象について分析を展開。




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