キム・ホンソンの三味一体
vol.218 人間を人間たらしめるもの
2024-11-29
好きな映画で「グッド・ウィル・ハンティング」というのがあります。MITの教授ランボーは大学の清掃員として働いていた主人公のウィルの非凡な才能に眼をつけ、彼の才能を開花させようとしますが、ウィルはケンカをしては鑑別所入りを繰り返す素行の悪い青年でした。ランボーはウィルを更生させるため様々な心理学者に彼を診てもらうのですが、皆ウィルにいいようにあしらわれサジを投げ出す始末。ウィルは幼い頃に養父から受けた虐待がトラウマになっていて心を閉ざしていたのです。最後の手段として、ランボーはウィルに学生時代の同級生で心理学を教えるショーンを紹介します。そして、根気よくウィルと関わっていくショーンは、やがてウィルのことを理解するのです。「彼は捨てられる前に人を遠ざける。それが彼の防御本能だ。だからずっと孤独だった。」とショーンはランボーに言います。実はショーンも幼少期に父親からの虐待を受けていたのです。そして、いよいよこの映画の核心となるシーンの中でウィルが自分の幼少期に受けた虐待について触れます。ウィルが「自分の父親はレンチと棒とベルトをテーブルに並べて『選べ』って僕に言ったものさ。」と言います。ショーンが「自分だったらベルトを選ぶだろうね。」というと、ウィルは「自分はレンチを選んだよ。」と言います。おそらくいっそのこと殴り殺された方がまだマシだ、と思ったのかも知れません。この後に続く対話の中でショーンは、「虐待を受けたのは君のせいじゃない」と繰り返して言います。「わかってる」と上辺だけの返事をするウィルに対して、ショーンは繰り返し「君のせいじゃない」、となんと10回も繰り返して言うのです。やがてウィルが涙と共に固く閉ざしていた心を開き、二人の絆は完全なものとなるのです。
それほど遠くない未来に、人間より優れたAI(人工知能)が人間に代わって仕事をし、人間に代わって大事な判断を下す時が到来するでしょう。医者も技術者も要らなくなり、芸術の領域までもAIが人間の代りを果たすようになる時、人間は「人間とは何か」という問いを自問するようになると思います。人間を人間たらしめるもの、AIに代わることのできない人間らしさは何かについて悩まないといけない時が必ず来ると思います。その答えの一つが、自分の痛みを通して人の痛みを感じること。すなわち共感する能力というものではないでしょうか。合理性と効率性というAIの最も優れた長所とは真逆のところにある「他者の痛みに共感する能力」こそ人間を人間たらしめるものではないでしょうか。
※コラムの内容はコラムニストの個人の意見・主張です。

